「孤立続いている」険しい林道、空腹耐え…集落住民の現状 球磨村

西日本新聞 社会面 古川 努 長田 健吾

 やまない雨が熊本、大分、福岡3県を中心とする被災地を苦しめる。熊本南部を襲った豪雨から5日目を迎えた山あいの集落では、住民たちがわずかな食料を命綱に支え合う。コロナ禍からの奮起に燃えていた大分県由布市の歴史ある温泉街は宿の一部が損壊し、共同浴場も流失。行方不明だった旅館業の女性の死亡も確認され、湯の町に悲しみが広がった。「一体いつまで…」。週末にかけての大雨に備え、人々は後片付けの手を止め、再び避難を余儀なくされた。

 記録的豪雨に襲われた熊本県南部、球磨川流域の被災地は救助や道路復旧が徐々になされ、孤立集落の解消が進む。現地は今、どんな状況になっているのか。最も被害が大きかった地域の一つ、同県球磨村の一勝地地区周辺は林道の開通で孤立状態が解消したとされるが、現場を訪ねると、依然として住民ら300人以上の危機は続いていた。物資の補給路は極めて険しい山道。住民は消費期限ぎりぎりのパンで空腹をしのぎ、こう訴える。「孤立はまだ、続いている」

 ごうごうと流れる球磨川の激流の音が絶え間なく響く。9日午後1時すぎ、球磨村一勝地地区。自主避難所となっている村の温泉施設「かわせみ」では、気心が知れた同じ集落の21人が身を寄せていた。

 話を聞き驚いた。地域では電力や通信が一時途絶え、情報から遮断された。記者が九州の豪雨被害の状況を伝えると、一人が「日田もひどかとね」。通信などは8日に復旧したが、途切れ途切れの状態という。

 被害発生当時、被災した家の中から泥にまみれた冷蔵庫を開けて、食材を集めて分け合った。「ダイエットになるやろか」「次の健康診断は良か結果が出る」。極限状態の中、恐怖を冗談で紛らしてきた。しかし、被災3日目ごろから空気は一変した。疲労と「腹六分目」の空腹感、共同生活への気疲れが住民たちの心を追い詰めていった。

 「2日前だったかな」。かわせみに避難した住民の一人、告鍬(つげくわ)正美さん(65)は、役場職員とのやりとりを思い出す。「別の避難所に移ってほしい」と告げられたが、住民たちは「ここに残る」と決断した。「一度出たら帰れなくなる。それより、まともな道路の復旧を」。告鍬さんは住民の思いを代弁し、訴えた。

 孤立解消の根拠となる「道」を確認してみた。山肌からあふれる雨水に突っ込み、ぬかるむ土砂を何度も乗り越えた。正面から来た車とすれ違う際は、崖や山肌ぎりぎりに車を寄せる必要がある。迷わなければ街まで1時間足らず。迷えば行き止まりに当たる。

   ◆    ◆ 

 村職員たちも苦悩を深める。一勝地地区の対岸にある村役場隣の施設「清流館」では8日夕、職員が約300人分の夕食を仕分けていた。「明日までか…」。総務課の日隠啓知さん(34)はハンバーガーの消費期限を確認し、地区ごとに段ボールに詰めていった。

 この日の配給は朝も、昼もハンバーガー1個ずつ。「ごはんとみそ汁が恋しいがぜいたくは言えない。生きるためには食べんと」。備蓄は、カップ麺や調理パンなど2日分程度になった。「あしたから1日2食しか配れん」。日隠さんは、そうつぶやいた。

 現実は、「孤立解消」とはあまりにも懸け離れていた。情報から遮断され、険しい山道が唯一の生命線。危機的状況だった。告鍬さんは言う。

 「ここにいることを見つけてもらっただけ。生活の孤立は解消しとらんですよ」 (古川努、長田健吾)

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