「やりがいって何」教員、綱渡りの日々 コロナで業務増大

西日本新聞 くらし面 四宮 淳平 金沢 皓介

「疲弊する学校」(上)

 新型コロナウイルスによる長期休校が明けた学校現場で、学習の遅れや感染予防に追われる教員たちが悲鳴を上げている。急ぎ足の授業に子ども同士の触れ合いも促せず、検温、消毒や給食の配膳といった業務も増大する。「教員のやりがいって何」「一人一人と向き合う時間がない」。胸の内を語る機会が少なく、静かに募るストレスが学校全体を覆っている。

 「おはよう! さきにいってくるね。まいにちごめんね」。福岡県内の公立中の女性教員(30代)は早朝、幼いわが子に置き手紙をして家を出る。従来より1時間早い午前7時すぎには出勤する必要があるからだ。

 教室の窓を開け、登校してくる生徒が家庭で検温してきたかをチェック。忘れた生徒が毎日数十人は列をつくり、学校で検温する。近年の教員不足で担当教科の授業は詰まり、空いているのは1日1こま程度だ。「授業で小テストを実施すれば、採点しているうちに時間はあっという間になくなる」

 給食は5分間でかきこみ、午後の授業へ。放課後は部活動指導とトイレ掃除や教室の消毒作業が並行してあり、職員会議と続く。生徒の問題行動は頻発しており、家庭訪問を行う日もある。

 帰宅しても夕食を自炊する体力も気力もなく、最近は弁当ばかり。夫も仕事をしており、家事育児を終えて就寝できるのは午前1時すぎ。子どもの夜泣きで起こされる日も。「耐えるしかない。早くコロナ前の状況に戻ってほしい」。綱渡りのような日々が続く。

 学校現場のコロナ対策について文部科学省は、3密(密閉、密集、密接)を徹底的に避ける「新しい生活様式」への移行が不可欠と指摘。休み時間や登下校など教職員の目が届かないところが「一番の感染リスク」と言及している。

 「密ですよ」「駄目です」。福岡市立小に勤務する40代の女性教員は6月のある日も開口一番、子どもたちを注意した。感染予防の大切さはこれまで何度も伝えているが、子どもたちは教室の至る所でくっつき、おしゃべりに夢中になる。

 授業中、グループワークは設けていない。1こまは通常より10分短い35分。今年から新しくなった教科書で授業計画を練るが学びを深める妙案は浮かばない。

 休憩時間は座席の列ごとにトイレに行かせ、手を洗ったかを確認。自身がトイレに行く時間はなく、午前中は水を飲まないようにしている。給食時間にはご飯、汁物、副菜など学級の人数分を1人でつぎ分け、自分の分は隠れてごっそり減らす。「食べる時間も気力もない」

 昼休みは教職員が輪番で運動場を見回り、掃除、午後の授業と切れ目はない。下校時、密集を防ぐため靴箱は学級別に利用しており、子どもたちを引率する。

 放課後は消毒作業。机、いす、掃除道具、ドアなどを丁寧に拭いて回るが「どの程度やれば滅菌できるのかも分からない」。職員室に戻ると午後4時すぎ。翌日の7こま分の授業準備に取り掛かる。疲れた顔の同僚は有給休暇を使って早退しているが、互いに声を掛けることはない。

 「何のため教員になったのだろう」。余裕のない日々に仕事のやりがいすら見失いつつある。そのしわ寄せは子どもにも向かう。

 「先生、あのね」。教室で気軽に話しかけてくる子どもたちに「ごめん、ちょっと密だから離れよう」。大好きだった子どもたちの笑顔は、マスクに覆われて分からない。 (四宮淳平、金沢皓介)

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