労働者が移動しやすい環境を 菅沼明正氏

西日本新聞 オピニオン面

◆コロナ後の移住

 大都市では新型コロナウイルス感染拡大の影響で、地方への移住希望者が増えているといわれている。人口が密集していない地方の方が低リスクと判断する人が増えたのだ、と考えたいところだ。だが実は、移住希望者はコロナ禍以前から多く、2014年の内閣府の「農山漁村に関する世論調査」では、都市住民の約32%に農山漁村地域の定住願望があった。では、コロナ禍以前と何が変わったのだろうか。

 戦後の日本社会の人口移動は、進学・就職・転職などを機に、地方部から都市部へ移動するというのが基本的なパターンだった。裏を返せば、地方移住は学校や仕事から離れることを意味し、こうした生き方はほとんど想定されてこなかったといえるだろう。このため実態が把握できる統計も限られる。

 コロナ禍の影響で生じた変化は、日本社会の働き方から考えると理解しやすい。日本には、日本型雇用(長期雇用・年功賃金)を享受する大企業正社員(約3割)、これらのメリットを享受しない中小企業などの正社員(約3割)、非正規雇用者(約4割)の3種類の働き方があり、このうち大企業正社員と非正規雇用者の間で、地方への移住希望者が増えている。

 まず、大企業正社員の一部の層で、「仕事を辞める」という地方移住の前提が崩れた。コロナ禍は場所を選ばずに仕事をするリモートワークを推し進め、日本型雇用のメリットを失わずに地方部に住むことを可能とした。営業職などを除く一部の層に限られるが、地方移住が現実的な選択肢の一つとなりつつあるのだ。

 また、日本の働き方の約4割を占める非正規雇用者のうち、雇い止めなどを受け、都市部にとどまることにメリットを感じない人々が一定数増えたと考えられる。この中にはUターン希望者も含まれる。感染が拡大する度に外出自粛を迫られるならば、食住に高いコストを払って都市部にいる意味が薄れるだろう。

 大都市に若年層を吸収され続けた地方にとっては、「社会の若返り」を図る機会になるかもしれない。ただし、地方移住の促進を考えるならば、労働者が企業を移動しやすい環境、とくに同一賃金・同一労働という企業を超えた職務評価基準の整備が重要であることを、忘れてはいけない。

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 菅沼明正(すがぬま・あきまさ)九州産業大地域共創学部講師 慶応大大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。同大学総合政策学部非常勤講師を経て、2020年4月より現職。専門は歴史社会学。

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