データ可視化し感染対策 慶応大教授 宮田裕章氏

西日本新聞 総合面 古川 幸太郎 伊東 昌一郎

コロナと経済社会 変革への視座

 -新型コロナウイルス対策で求められることは。

 「世界で積み上がったデータから見えつつあるのは、リスクを伴う接触を減らすことの重要性だ。ロックダウン(都市封鎖)が解除されたヨーロッパでは、感染症に対応した防御行動を適切に取ることができれば活動レベルを上げても感染拡大に至らないことが分かった。一方、中国や韓国のように国単位で新規感染者数をゼロ近くに抑え込んでいても、防御行動を取らなければ感染が広がる。無症状感染者やPCR検査で検知していない感染者が一定数存在するためだ。求められるのは、働き方や過ごし方に応じた防御行動だ」

 -日本の対応をどう評価しているか。

 「一斉休校や緊急事態宣言、休業要請が必要だったのかなど、いろんな意見がある。その時点での情報に基づく判断で、いま同じ状況になっても取るべき対策は異なるだろう。当初は『マスクは有効ではない』と言われていたが、今では世界保健機関(WHO)がマスクを推奨している」

 「いまだ感染の実態を把握しきれている国はない。どの国もまだ勝者ではない。大事なことはどのような対策に効果があり、効果がなかったかを把握して改善し続けることだ。科学的な根拠に基づく政策が世界中で求められている。一方で遺伝子変異や気温の変化なども考えられ、同じ対策が有効であり続けるという保証はない。データに基づいて検証しなければならない」

 -課題はどこにあるか。

 「日本においては、デジタルツールの有効活用に課題が示された。保健所との連絡は紙とファクスで、現場に大きな負担がかかった。デジタルツールを有効に活用することができれば、医療従業者やハイリスクの方々にマスクを届けることもできた。給付金についても、経済的なダメージに応じて迅速に配ることができたはずだが、現実は10万円の給付金の配布も困難だった。活用目的を明確に示し、マイナンバーの活用を進める必要がある」

 「ドイツは科学的根拠に基づきリスクマネジメントをした。韓国は重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)の苦い経験から法律を作って、準備をしていた。台湾はデジタル技術を駆使して国民に情報をオープンにして対応した。一方で日本は有事に対応した法的根拠が十分に整っていなかった。今後はこうした点からも改善をすることが重要だ」

 -感染「第2波」への備えはどうすべきか。

 「『夜の街』という存在自体が悪いのではない。昼のカラオケでも感染者は出ており、飲み会もリスクはある。大事なのは予防活動だ。対策を取らない『ノーガード』な社会では、一気に広がってしまう。リスク対策を実施している店や職場のデータを把握して、可視化するのも有効だ。これにより対策を検討することができる」

 「国境開放を適切に行うことができなければ、大きなリスクになる。日本は空港のPCR検査で陽性が出ても自己隔離のお願いしかできず、強行突破されてしまえば追跡することが困難だ。検査でウイルスを検知できない感染者もおり、次の感染のフェーズ(局面)では、強制力のないお願いだけでは乗り越えられない可能性がある。入国規制を緩和するのであれば、一定の実行力を伴う選択肢を用意するか、ブラジルのようにノーガードでいいか議論する必要がある」

 -データ活用にはプライバシー侵害の懸念もある。

 「メリットを見せなければ、国民は不安しか感じない。例えばマイナンバーと銀行口座のひも付けも、『プライバシーに踏み込みます』という、プロセスだけを伝えても警戒されてしまうだけだ。窮地に陥った人、災害によって収入が途絶えた人をスピーディーに支援できるようになることなど、社会的に有益であることを示す必要がある」

 -経済社会の見通しは。

 「コロナの終息には楽観的なシナリオでも1年以上かかり、2、3年かかる可能性も高い。世界には終息の明確なシナリオはない。4千万人以上の失業保険の申請があった米国、多くの予算を補償に積み上げるドイツなど、世界は退路のない変化に突入している。コロナ前の日常は戻ってこないという覚悟の下で、新しい日常をどうつくっていくかが大切になる。これまでは平均値を想定し、最大多数の最大幸福を目指してきたが、これからは一人一人に対応する『個別最適』が可能になる」

 「その鍵になるのがデータだ。一人一人のデータを1万人、10万人、100万人と集めると、分かることも増えてくる。データは共有財産だ。資本主義も株主利益を追求するのではなく、社会にいかに貢献するかという価値観で自社の役割や利益を考えることがますます大事になる」(聞き手は古川幸太郎、写真は伊東昌一郎)

   ■   ■

 新型コロナウイルスは、日本の社会、経済にどんな変革をもたらすのか。第一線の専門家や経営者に展望や課題を聞いた。

◆宮田裕章氏(みやた・ひろあき) 1978年生まれ。東大教授などを経て2015年から慶応大医学部教授。専門はデータサイエンス、医療政策。医療ビッグデータの活用を唱え、新型コロナ対策では厚生労働省とLINEと連携して全国調査を実施した。

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