「コロナ強権」で支持率回復 タイ民政復帰1年

西日本新聞 川合 秀紀

 タイで約5年続いた軍事政権から民政に復帰して16日で1年。クーデターと軍政を率い、政権を握り続けるプラユット首相の支持率は一時の低迷から回復しつつある。反転のきっかけは新型コロナウイルス問題。「危機」を巧みに利用する元軍トップならではの強権手法が奏功した形だが、このまま求心力を保てるほど足元の政治構図と経済環境は甘くなさそうだ。

 「全ての取り組みにかなり満足している」。14日の閣議後記者会見。1年の政権運営で不満に感じる点を尋ねると、プラユット首相はこう切り返した。強気の裏にあるのは新型コロナ対策の成功だろう。累計感染者がインドネシアなどより1桁少ない約3200人にとどまり、最近の演説でも「世界で最も感染を制御している国」と自賛した。

 政府系調査機関が6月に行った世論調査によると、政権運営を「非常に良い」「良い」とする回答は計51%。2018年8月調査(計71%)から急落した昨年12月調査(計39%)を上回り、反転に成功した。支持理由の最多は新型コロナ感染拡大の抑止。示唆的なのは、首相のリーダーシップをどう分類するかとの設問。「民主主義の政治」はわずか7%で最小だったが、「軍のような政治」が最多の53%に上った。

 3月下旬に1日の感染者が3桁に達するとすぐに非常事態宣言を発令。出入国や県境越えの移動、飲食店などの営業を制限したほか、夜間外出やアルコール販売の禁止など罰則付きの措置も次々に導入した。表現や集会の自由も制限するため批判もあるが、国民の多くが強権的と感じつつ感染抑止につながると支持しているのは明らかだ。タイ政治に詳しい専門家は「クーデターが多いタイでは混乱時に『強い指導者』を求める風潮が強い」と語る。

 直前まで首相は追い込まれていた。連立与党がぎりぎり過半数の下院では審議遅れが頻発。反軍を掲げ躍進した野党「新未来党」に対し、憲法裁判所が党首の議員資格剥奪と解党を相次ぎ命令。軍兵士が多数の市民を無差別殺害する事件も起き、学生中心の反政府集会が全土に拡大していた。そこへ新型コロナという危機が到来し「結果的に政権を救った」(外交筋)。

 ただ反政権派が消えたわけではなく、今年の経済成長率は東南アジア諸国連合(ASEAN)最悪のマイナス8%と予想される。得意の「危機」対応も危機自体が長期化すれば効果は薄れる。それを意識してか首相は次の手を打っている。

 6月下旬に「変化の時」と題するテレビ演説を行い「政府を批判する人々の声も聞き、改善案を尋ねたい」と強調。今月には、メディア嫌いにもかかわらず複数の主要新聞社を行脚し、編集幹部らと面会。異論にも耳を傾ける姿勢をアピールした。行脚先の一つ、バンコク・ポストは「メディア同様、野党にも対話を呼び掛けて知恵を総動員すべきだ」との評論を掲載した。同じ演説で「議論で時間を浪費できない」とも語った首相。近く見込まれる初の内閣改造とその後の政権運営で「変化」の真偽が示されることになる。 (バンコク川合秀紀)

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