泥水1メートル超…「必死だった」当直1人、高齢者9人の命守った女性

西日本新聞 社会面 村田 直隆

 熊本県南部を襲った4日未明の豪雨では、災害弱者であるお年寄りが暮らす施設も危険にさらされた。芦北町のグループホーム「千花」では、平屋が約1メートル10センチ浸水。1人で当直中だった職員中浦まゆみさん(59)は水位が増していく恐怖の中、認知症の70~90代の入所者9人をテーブルの上に乗せるなど冷静に対応し、全員が無事に救助された。

 雨が降り続いていた4日午前2時ごろ、中浦さんは電話がつながらなくなったことで異変に気付いた。「何かあれば1人で乗り切らないといけない」と決意した。

 雨脚は強まるばかり。午前5時前、居室で寝ていた入所者を起こし、歩ける人や車椅子利用者の計7人をまず施設中央の大部屋に集めた。「1カ所で見守った方が安全と考えた」という判断だった。その直後、玄関から泥水が浸入し始め、みるみる膝の高さに上昇。二つのテーブルに座ってもらった。

 水の勢いで部屋のドアが外れ、たんすも傾いた。居室に残っていた寝たきりの女性ら2人も抱えて大部屋に連れてきた。

 ただ、寝たきりの女性がテーブルに上がれるスペースは既になかった。中浦さんは機転を利かせ、外れたドアを壁の手すりとソファの上に乗せて即席のベッドにして寝かせた。

 車椅子の男性はテーブルに乗せられず、胸付近まで水に漬かった。着衣がぬれ、体を震わせる人もおり、低体温症が心配だった。中浦さんは、夜食用のパンや菓子を食べさせて体温維持に努め、背中をさすりながら「もうちょっとだから頑張ってここを出よう」と励ました。

 「これ以上、水位が上がったらどうしよう」。平屋で逃げ場はなかった。重度の認知症の人がテーブルから降りようとするのをとどめたり、眠ろうとする人を起こしたり、気の抜けない時間が続いた。

 水が引き始めた午前10時ごろ、施設の女性職員とその父親が駆け付けた。自衛隊が救助に来たのは午後2時だった。

 9人は無事に避難所に移動し、翌日から系列病院に身を寄せている。中浦さんは「とにかく必死だった。入所者の家族は心配していただろうし、皆さんの命が助かって本当に良かった」と振り返る。

 町は3日午後6時に大雨に備えて避難所を開設。雨が本格的に強まったのは4日午前0時を過ぎてからで、町が高齢者へ避難を呼び掛けたのは午前1時13分だった。中浦さんは「あそこまでの豪雨になるとは想像もできなかった。雨が本格的に降り始めた後では高齢者を移動させるのは難しい。今考えると、その前に避難する必要があったと思う」と話した。 (村田直隆)

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