虹の松原「危険」215本 男児死亡事故1年、安全と景観どう両立 

西日本新聞 社会面 津留 恒星

 佐賀県唐津市の国特別名勝「虹の松原」で折れた松と車が衝突し、同市の小学5年の川崎辿皇(てんこう)君=当時(11)=が亡くなった事故から20日で1年を迎える。42本の松が伐採されたが、県が樹木医の調査を踏まえて危険と判断した215本は今も現地にある。「唐津の宝」の松を残すよう求める声もあり、国と関係自治体の協議は停滞、安全対策と景観保全を両立する答えを見いだせていない。

 「事故前と変わらず、危ない松がそこら中にあるのはおかしい」。長男の辿皇君を亡くした川崎明日香さん(38)は月命日の6月21日、事故現場を訪れ、近くの松に目をやった。

 事故は昨年7月20日深夜に発生。車を運転していた明日香さんによると、折れた松の木が車上部を突き破って助手席の辿皇君の胸に刺さり、命を奪ったという。明日香さんは「二度と同じような事故が起きないよう、危険な松は全て切ってほしい」と訴える。

 一方、保全活動を続ける市民団体は「大切に守られてきた唐津のシンボル。命の重さは分かるが、なるべく切らないでほしい」と願う。虹の松原は東西4・5キロに100万本が連なる松林で、400年の歴史を持つ。松原では全国唯一の特別名勝で、多くの市民が松葉かきなどに取り組む。

 道路管理者の県は事故直後、文化財行政を担う市教育委員会の許可、松原所有者の国の同意を得て、特に危険な松29本を伐採。倒木の恐れがあると考える254本の伐採も求めたが、市教委は県に対し樹木医の調査を要請した。県は調査結果を受け、228本について「倒木などの可能性が高い」と判断。病害虫被害があった13本を伐採、残り215本を「経過観察」とする方針を決めた。市教委は13本の伐採を「妥当」とし、県が伐採した。

 市は2月、県、国と継続的に対策を協議する考えを示したが、「新型コロナウイルスの影響で集まりづらい」などとして、会合は一度も開かれていない。市幹部は「市教委、県、国で権限が分かれ、半ば押し付け合いになっている」と明かす。

 今年に入り、枯れ枝が車に落ちる事故が1件発生。県は「目視での点検以外に、事故を防ぐ手段を検討中」とする。市民からは「怖くて通れない」と不安の声も漏れる。

 龍谷大の木許(きもと)守教授(文化財行政学)は「複雑な問題だが、人命が最優先。説明責任を果たす意味でも、関係機関は主体性を持ち、積極的に協議の場を設けて議論を深めるべきだ」と話す。

(津留恒星)

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