最年少タイトル 将棋の新時代開く偉業だ

西日本新聞 オピニオン面

 相次ぐ災害や長引く新型コロナウイルスとの闘いで閉塞(へいそく)感に覆われる国内に、喜びと活力を与えてくれる快挙である。

 将棋の八大タイトルの一つ、棋聖戦5番勝負で渡辺明棋聖に挑んだ藤井聡太七段が17歳11カ月でタイトルを奪取した。屋敷伸之九段の18歳6カ月の最年少記録を30年ぶりに更新した。

 棋聖こそ失ったものの棋王と王将を保持する渡辺二冠は、現役最強という呼び声も高いトップ棋士である。段位も実績も格上の強敵を相手に、厳しい競り合いが続いた対局を3勝1敗で乗り切った。「すごい人が出てきた」と渡辺二冠が評価するほど見事な勝ちっぷりだった。

 藤井棋聖は2016年に14歳2カ月でプロ入りし、最年少棋士記録を62年ぶりに更新した。以後、将棋界のさまざまな記録を次々と塗り替えてきた。

 世間の注目を浴びながら、高校で学び、棋士として圧倒的な成績を積み上げる。並大抵のことではない。コロナ禍で50日以上、対局から遠ざかったが、それを「自分の将棋を見つめ直す」機会とした。謙虚な物腰や穏やかな表情の奥に潜む、ひたむきな向上心と勝負への執念、精神力には、驚くほかない。

 デビューから負けなしの29連勝の新記録を樹立し、「藤井フィーバー」で沸いた2017年は、将棋界の頂点ともいわれる名人のタイトル保持者が人工知能(AI)のコンピューター将棋ソフトに敗れた年でもある。

 以降、AIを日々の研究に取り入れる棋士が増えた。斬新な戦法が生まれ、従来の定跡が通用しない時代になってきた。藤井棋聖もAIを活用している。当初弱点とされた序盤や中盤を強化できた一因ともされる。

 無論、AIが示す最善手を、うのみにしているわけではない。棋聖戦の対局でも、AIが最善手と評価しなかった1手が、実は絶妙の手だった。

 AIを過信せず、さらに強くなるための道具として使いこなしている。今後、社会の多様な分野で導入が進むAIとの「向き合い方」に、ヒントを与えてくれる姿勢とは言えないか。

 藤井棋聖は現在、王位戦7番勝負(西日本新聞社主催)で木村一基王位に挑んでいる。既に2連勝し、8月初旬の第3局に臨む。これに勝てば、8月19、20日に福岡市で行われる第4局で、最年少の二冠という新たな記録が生まれる可能性がある。

 それでも、昨年9月に史上最年長の46歳で初タイトルを獲得した木村王位は、粘りが身上の難敵だ。ハードルは高い。

 AIの導入で、将棋の世界は豊かに広がりつつある。若き天才がどんな新時代を切り開くのか。楽しみは尽きない。

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