モーツァルトでマンゴー栽培 チューバ奏者 緒方淳一さん(52)

西日本新聞 筑後版 濵田 耕治

 モーツァルトの明るい曲が響いているのは、福岡県小郡市希みが丘の一角。だが、ここは住宅の居間ではない。水田の脇に立つ、土のにおいがするビニールハウスだ。

 「面白いでしょ? 昼間は毎日えりすぐりのモーツァルトを聴かせています。酪農でも牛に音楽を聴かせると搾乳量が増えるそうです。音楽を聴いて育った子どもの心が豊かになるように、愛情を込めて育てれば必ずおいしくなる」

 近くに住む緒方ファーム代表の緒方淳一さん(52)が笑顔を向けた。ハウスの中にところ狭しと並ぶのはマンゴーだ。アップルマンゴーで知られるアーウィン種など170株。「赤ん坊と一緒で手がかかるけど、収穫までもう一息」と額の汗をぬぐう。

 ユニークなのは栽培法だけではない。緒方さんの経歴も異色だ。国立(くにたち)音楽大を卒業。プロのシエナ・ウインド・オーケストラ(東京)の創立メンバーとなり、有能なチューバ奏者として鳴らした。だが腰の病気を患い、泣く泣く退いて福岡に帰郷。高校や中学の音楽教師をして10年、コンサートの企画や合唱団の指導をしていた頃、運命を決定づける出来事があった。

 「妻が贈答用に買ったマンゴーがあまりにおいしくてね。好奇心からインターネットで検索して佐賀県上峰町の農家を訪ねたんです。すると、その方と意気投合。同じ苦労人だったからでしょうか。マンゴーの苗を分けてもらい、育て方も教えてもらいました。私の農業の師匠ですね」

 人との出会いで救われてきたという。現在の農地は、地元の不動産業者に「土地はタダで貸すよ」と言われた。2年前にビニールハウス1棟を建てると、室温管理システムの開発者と知り合いになり導入。あれよあれよという間に、マンゴー栽培が副業になった。

 自らのミスでハウスの屋根が倒壊し、被害が出たこともある。決して順風満帆ではなかったが、8月初めには、栽培2年目で初の出荷にこぎ着ける。コロナ禍で気持ちの整理もついた。農業と音楽家の「半農半音」でやってきたが、農地を拡大し、専業農家として勝負に出るつもりだ。

 「オーケストラは一見、華やかな世界でしょ。でもステージに上がるまでは毎日毎日、地道な練習の積み重ねなんです。努力の先に観客の笑顔がある。農業もどこか似ています。大雨は心配だし、収穫の日までヒヤヒヤの連続ですが、やることは同じですね」

 蒸し暑いハウスの中で、たくさんの努力の結晶が赤く色づいていた。 (浜田耕治)

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