もらった方は逃げ切るのか

西日本新聞 オピニオン面 永田 健

 九州某県の総局に勤務していたころ、地元テレビ局の古参記者に聞いた話である。県内のある町で、町長選に絡んで大規模な買収が行われたとのうわさをキャッチした。県警も内偵しているらしい。早速現地に取材に行った。

 しかし特に具体的な情報があるわけではない。取りあえず住民の声でも拾おうと、その辺で農作業をしているおじさんにカメラとマイクを向け「町長選で買収があったとの話がありますが」と聞いてみた。

 するとそのおじさん、テレビカメラに向かって「はい、私も5千円もらいました」。あっけらかんとした答えぶりに、聞いた方が絶句したそうだ。

 買収がおおっぴらだったので罪の意識が薄かったのか。それとも田舎ならではの素朴さか。5千円という金額も絶妙にリアル。昭和の終わり頃のことである。

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 昨夏の参院選を巡る公選法違反(買収など)の罪で、前法相の河井克行衆院議員と妻の案里参院議員が今月上旬、東京地検によって起訴された。地方議員など100人に総額約2900万円を配ったとされる。令和の時代だというのに、まるで昭和を思わせる金権選挙ぶりに驚かされる。1人当たり平均29万円だ。5千円よりずいぶん多い。

 この事件では、当初は金銭の受領を否定していた地元広島県の首長や地方議員が、河井夫妻が起訴確実と見るや「実はもらった」と表明する「告白ドミノ」を演じたのが目を引いた。

 その言い訳がいちいち面白い。地元紙の報道によれば、三原市の市長は会見で「(否定したのは)うそではない。返すつもりで預かっていた」と繰り返し、さらに「(克行議員が)秘密というので守り通した」と、自分が信義を守った結果であるような説明をした。それでも市長は辞職に追い込まれた。

 安芸高田市の市長は受領を否定したまま今春の市長選に立候補し当選していた。「周囲の期待もあって選挙に突入してしまった」と説明。「周囲の期待」のせいだと言いたかったのか。この市長は丸刈りにして反省の意を示し続投しようとしたが、結局辞職した。

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 この事件で納得いかないのが、金銭を受け取った首長や地方議員ら全員の刑事処分を東京地検が見送ったことだ。常識に照らせば「金を配った方は起訴され、もらった方はおとがめなし」というのは不自然だ。

 地検は受領側を立件しなかった理由を説明していない。「河井夫妻立件に向け、捜査段階で受領を認めてくれたことへの見返り」「金銭授受を徹底的に認めず立件が困難な受領者と、認めた受領者との間で不公平が生じかねない」などの理由が推測されている。

 しかし、前述の市長のように受領がばれて辞職に追い込まれた地方政治家は全体のほんの一部にすぎない。このまま検察が受領側のリストを公表しなければ、大部分は口をつぐんで逃げ切りを狙うに違いない。今頃「ばれずに済みそうだ」と胸をなで下ろしているだろう。それでいいのか。

 そんな政治家たちに比べれば「5千円もらいました」のおじさんの方がはるかに人間として立派、という気がする。いや「立派」は語弊があるだろうが、少なくとも正直者である。

 (特別論説委員・永田健)

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