危機は発想転換の好機 クオンタムリープ会長 出井伸之氏

西日本新聞 吉田 修平 一瀬 圭司 伊東 昌一郎

コロナと経済社会 変革への視座

 -新型コロナウイルスの感染拡大が、日本経済にもたらしたものは。

 「『分断』だ。感染拡大防止のため人々が行き来できずに国と国が分断されたのはもちろん、企業同士も分断され、サプライチェーン(商品や製品の調達・供給網)も寸断された。企業内でもテレワークなどによって人の分断が起こった」

 「顧客との分断を余儀なくされた中小企業は、特に資金繰りが厳しくなっている。飲食業などは顕著だ。感染拡大の第1波は(売上高が減少した中小企業などを支援する)国の持続化給付金などで乗り切れても、第2波が来たらどうなるか。破綻する企業は、さらに増えるかもしれない」

 -政府の政策をどう評価するか。

 「各世帯にマスクを2枚ずつ配布するといった、子どもじみた政策が目立つ。新規感染者数など目先の数字にとらわれすぎて、十分なデータ分析ができていないからではないだろうか。もう少し科学的な見方に基づいた政策を打ち出してほしい」

 「当初、感染予防に重きを置いていた政策はようやく経済活動再開にシフトしてきた。人々の健康も大事だが、それを支えているのは経済。どちらかに偏りすぎては成り立たない」

 -浮き彫りになった問題点は。

 「マイナンバーは個人に付与されたのに、十分に活用されていない実態が明らかになった。私はこうしたシステムだけでなく、縦割りの政府や社会こそが大きな問題だと考える。地方と中央の行政のあり方を見直す良い機会ではないだろうか。どこまで地方に権限を持たせるのか。九州を一つの国として見てみるのもいいかもしれない」

 -近現代の日本の中で、新型コロナの影響をどう位置付けるか。

 「私は(経済の側面から)日本が近年、3度の『敗戦』をしたと思っている。まず、第2次世界大戦。次に1985年のプラザ合意。三つ目は90年代から2000年代にかけてのIT革命に乗り遅れたことだ。コロナ騒動は敗戦なのか、それとも新生日本の誕生なのか、その境目だと思う」

 -企業経営者はどう乗り越えていけばいいか。

 「考え方一つだと思う。危機は、見方を変えれば好機だ。ネガティブに捉えた人たちは負ける。企業の大小を問わず、ここが一つの節目と考えて、新しいことに挑戦すればいい。例えば顧客との関係にしても、今まで当たり前だと思っていたことを見直す機会にすべきだ。ただ、トップだけが声高にそれを言っても駄目だ。小さなことでも良いから、経営層と従業員が一つの集団として『変革しなきゃいけない』という意識の下、合意形成できた企業が成功できるのではないか」

 「九州は近年、熊本地震や豪雨など自然災害が相次ぎ、大きな被害を受けた。企業経営もまちづくりも被災前に戻すだけではなく、新たな方向性を見いだす好機と捉えてほしい」

 -九州で新たな産業は興るか。

 「九州は長年、自動車関連や半導体関連など、ものづくりの生産拠点の役割を担ってきた。下請けの工場が多かった。しかし、だからこそ九州特有の産業をつくっていけると思う。ITとモノは必ず共生しないといけない。データサイエンスを採り入れたものづくりなど九州特有の新産業が生まれる素地はあるのではないか。九州出身の企業経営者は少なくない。ヒントを探る場として、彼らの知恵を借り、皆が発想を出し合う機会を設けてはどうか」

 -日本が今後、世界で「必要な国」であるためには、何が求められるか。

 「アジアへの貢献だろう。新型コロナによる『分断』は2、3年で、そう長くは続かないだろうとみている。ウイルスとの共生と調和ができてくれば(他の感染症同様に)人々が新型コロナに対して恐怖や驚きを感じない世界になる。その中で、日本がインドやフィリピンなど今後の伸長が期待される国々にどう貢献できるか、大局を考えてほしい」

(聞き手は吉田修平、一瀬圭司、写真は伊東昌一郎)

   ◇    ◇

 出井 伸之氏いでい・のぶゆき) 1937年生まれ。早稲田大卒。60年ソニー入社。95年に社長、2000年に会長就任。計10年にわたってソニー変革を主導した。退任後の06年、クオンタムリープを設立。大企業の変革支援やベンチャー企業の育成支援に取り組む。

 

 

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