”暴れ川”でも「恨めない」 アユ漁、川下り、旅館…再起誓う人々

西日本新聞 一面 中原 岳 中村 太郎

 熊本県南部を襲った豪雨で氾濫し、大きな被害をもたらした球磨川。流域の住民たちは代々、この“暴れ川”と付き合い、川の恩恵を受けてきた。アユ漁、川下り、川面を望む旅館…。これまでとは桁違いの水害で壊滅的な打撃を受けながらも、やはり川とともに生きるべく、前を向こうとする人たちの姿がある。

 人吉市の吉村勝徳さん(72)は曽祖父から4代続くアユ漁師。川魚の王様と呼ばれるアユは球磨川を象徴する魚だ。例年400~500キロを取り、贈答用として県外にも発送してきた。

 お中元の書き入れ時を目前に襲った豪雨。過去にも水害に見舞われるたび、新しい漁場を見つけて再開してきたが「今回は川の流れ自体が変わってしまいそうだ」と懸念する。どこで漁ができるのか、どれだけ魚が残っているのか。再開のめどは立たない。

 「漁に出ないと飯が食えない。でも、自然の成り行きだから、受け入れないと」。吉村さんは自身に言い聞かせるように語った。

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 アユと並ぶ球磨川名物の川下り。運航会社「球磨川くだり」(同市)の船頭、藤山和彦さん(40)は20歳で船に乗り始め、10年前から船頭を務める。天候、水量、季節。日々、異なる川の表情に魅力を感じてきた。「こんな災害になるとは予想していなかった。悲しいです」

 運航する清流コース(4・5キロ)は今年2月までの1年間に約2万7千人が利用。新型コロナウイルスの感染拡大で2カ月近く運休し、5月下旬に再開した。

 予約が徐々に回復していたさなかの豪雨。全12隻が流されたり破損したりした。全て使えない可能性もある。終点から発船場へ船を運ぶトラックや乗客の送迎バスも浸水。川の地形が変わればコースの見直しも必要になる。傷ついた船を見つめていた藤山さんは、力を込めた。「お客さんが楽しんでくれる姿を励みに続けてきた。すぐには難しいけど、また船を出したい」

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 1934年創業で国の有形文化財に登録されている人吉旅館。客室21室全てが川に面し、部屋から眺める景色が自慢だ。アユやヤマメの刺し身や塩焼き、川の恵みで育まれた米など、料理の約8割は地元産品を使ってきた。

 旅館は1階天井まで水没し、磨き抜かれた床は泥に覆われた。それでも「球磨川を恨めない」。おかみの堀尾里美さん(62)は言う。

 堀尾さんは韓国出身。28年前に嫁いできた。つらいときは、川べりから水面を眺めた。「球磨川は父であり、母であり、うれしさも悲しさもいろいろな思いを受け止めてくれるような存在」。国境を超えて懐かしさを与えてくれる風景だと感じてきた。

 全国の常連客や旅館関係者から届く励ましの言葉にはこう返している。「必ず再起するから、営業再開したら遊びにきてください」。球磨川とともに、これからも歩んでいく決意だ。 (中原岳、中村太郎)

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