ルーツは煮干しの聖地…九州で津軽ラーメン、こだわりは

西日本新聞 もっと九州面 小川 祥平

◆ラーメン のれんのヒストリー 替え玉(7)麺商人(熊本市)

 1951年10月、作家の内田百閒(ひゃっけん)は青森駅に降り立って「ラアメン」を食べている。乗り継ぎまで2時間の滞在を紀行文「阿房列車」に書いた。まずは床屋ですっきり。その後、焼け跡に立つ新装の食堂に立ち寄った。そこで「うまい」と言いながらラアメンをすすった。

 内田が食べた一杯は、青森県の津軽地方で古くから親しまれてきた「津軽ラーメン」だろう。札幌や喜多方などに隠れがちだが、青森は北日本有数のラーメンどころ。特徴は煮干しを効かせたスープにある。

 その津軽ラーメンを食べさせる九州で数少ない店が「麺商人」(熊本市中央区)である。繁華街から離れた立地にもかかわらずいつも大盛況。扉を開けると、湯気とともに煮干しの香りが漂ってきた。

 店内は煮干しへのこだわりであふれる。メニューには「ルーツは煮干しの聖地・青森津軽地方」との文句が躍る。ヒラゴ、ウルメ、焼き干し…。壁には煮干しの種類、産地を掲げる。店主の古用(ふるもち)秀明さん(42)は「スープは煮干しのほかは水、しょうゆのみ。うま味調味料は使っていません」と胸を張る。

 定番の「煮干し中華そば」を頼んだ。透き通ったスープが美しい。丼を抱えてごくりと飲むと、煮干しのダシが染み渡る。酸味と苦みが顔を出すが、えぐみが出るぎりぎりの所で抑えられている。思わず、2口、3口。止まらない。

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 古用さんは大阪府生まれ。高校卒業後、飲食の世界に飛び込み、その一つがラーメンだった。当時大阪では博多系豚骨がブーム。独立を考え始めていた24歳は「博多ばかりではつまらない。ひと味違う熊本に行こう」と新天地を目指した。

 そのまま熊本の老舗の門をたたいて4年間修業。一時ラーメンから離れたが、妻の美雪さん(41)との結婚を機に開業を模索し、2009年に店を構えた。

 看板メニューは豚骨スープにマー油が載った熊本ラーメン。軌道に乗りつつあったが、3年がたった頃に転機が訪れた。美雪さんの母方の実家がある青森県を初訪問して食べた津軽ラーメンに衝撃を受けたのだ。

 その後も青森に赴いては研究し、現地のラーメン店主と知り合って助言も受けた。そして「煮干し中華そば」をメニュー化。当初は豚骨と並行して出したが、14年からは煮干し一本に。ほかにない味は評判を呼び、県内外からラーメン好きを集めるようになった。

 「食べに来た青森のラーメン店主から『青森にあってもおかしくない』と言われた。最高の褒め言葉でした」

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 阿房列車に話を戻そう。内田はいつも「ヒマラヤ山系」こと平山三郎と旅した。実は、ラアメンをことのほか気に入ったのは平山の方だった。内田はその様子を記している。

 <この麺が大変よろしい。ちぢれ工合と歯ざわりが、こんなのは滅多(めった)にありませんと云(い)って…大きな丼を平らげた>

 津軽ラーメンのもう一つの特徴は、平山が評した麺にあった。九州のものより太めの中太麺で、現地ではアルカリ剤を使用しない「無かん水麺」にこだわる店も多い。

 「うちも製麺所に無かん水麺を特注しています」と古用さん。そう聞いて、箸で麺を持ち上げる。確かに中華麺のような黄色っぽさはない。口に運ぶとコシがあってもっちり、小麦の風味も十分だ。滋味深いスープを邪魔せず、するりと胃袋に収まった。

 煮干し中華そばをメニュー化する際、古用さんは知人から「九州では受けないよ」と言われた。九州でラーメンに煮干しは使わない。煮干しを合わせるならうどん、というわけだ。

 ただよく考えてみると、この中華そばのスープは煮干しと水、しょうゆ、麺は小麦と塩、水しか使っていない。つまり、うどんとあまり変わらない。

 原材料がうどんと同じなら九州で受け入れられるのは当然ではないか。一方、同じ材料でこうも違ってくるのかとも思う。

 あれこれ考えを巡らしていると、気付けば平山のように丼を平らげていた。 (小川祥平)

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