「また水害なら…」揺れる“脱ダム”の街 再建にためらいも

治水策まとまらず10年

 熊本県南部の豪雨で、人吉市の中心市街地は球磨川の氾濫による浸水被害が広がった。泥水が引き、復旧作業が進む中、再び水害に遭うことを恐れ自宅や店舗の再建をためらう人もいる。「前に進みたいが、進めない」。球磨川最大の支流である川辺川へのダム建設中止以降、治水策は10年たってもまとまらず、街の未来が見通せない。「脱ダム」の街は揺れている。

 球磨川にほど近い市中心部の九日町。創業113年の時計・宝石店「宮山時計店」の店舗兼住宅は1階の店舗部分が天井まで水に漬かった。店主の宮山賢さん(51)の家族3人は2階の住居に逃げて無事だったが、2千万円分の商品は全て泥水にまみれ、売り物にならなくなった。

 宮山さんは棚も商品も撤去し、がらんとした店に立ち尽くし、つぶやいた。「また、いつか水害に襲われるんじゃないか」

 市中心部の最大浸水想定はハザードマップで5~10メートル。過去にも水害に見舞われ、国はリスク軽減に向けて川辺川ダム建設を計画したが、住民の反対もあり2009年に中止。国と県、流域市町村は新たな治水策の協議を続けている。

 宮山さんは「今後どれほどの大雨が降るかは誰も予想できない。緊急放流で一気に水が流れたらどうなるのか」とダム建設には消極的だ。ただ、「非ダム」の治水には巨額の費用と数十年単位の工期を要する。今回の水害が、一度は消えたダム計画を再燃させる可能性もある。

 考えが揺らぎ始めた人もいる。ダム慎重派だった男性(73)は自宅が床上浸水し「科学的、客観的に再検討し、ダムで水害が防げると分かれば、建設はやむを得ないのかもしれない」。濁流は1965年の大水害後にかさ上げした堤防を越えて襲ってきたという。

 自宅が床上浸水した女性(76)は「清流を守るためダムには反対だったが、もし川辺川ダムができていれば被害は少なかったのかも」と心中は複雑だ。

 日本料理店を営む佐藤勝則さん(61)は、店舗兼住宅が2階の床上90センチまで浸水し、柱や壁にカビが生え始めた。政府は被災した中小事業者を対象に復旧費の4分の3を補助する「グループ補助金」を適用する方針だが、佐藤さんは「被害が繰り返すかもしれないと考えると、どれだけ補助金があっても今の場所には建て替えられない」と話す。

 佐藤さんはダムによる治水には反対の立場だ。その上で、こう訴えた。「同じ場所に、今まで通りの街をつくり直すだけで良いのか。行政が一刻も早く治水のあり方を示さないと、街は復興の入り口にすら立てない」

(中村太郎、長田健吾)

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