避難所に段ボールベッド「高齢者の健康」最優先に 設営で重要なこと

西日本新聞 くらし面 長谷川 彰

避難所への段ボールベッド導入(中)

 災害時の避難所に導入が進む段ボールベッド。未曽有の豪雨に襲われた熊本県人吉市などでも、政府のプッシュ型支援で使われた。一部で「強度不足」などと報道された経緯も含め、今回、現場対応に携わった避難所・避難生活学会の理事、水谷嘉浩さんに取材し、設営作業にまつわる要点を整理した。

 水谷さんは、大阪府八尾市で段ボール製造会社を経営。2011年の東日本大震災を機に段ボールベッドを考案し、全国段ボール工業組合連合会の防災アドバイザーとして業界に普及を呼び掛ける一方、災害が起きるたびに同学会理事の立場で現地入り。手弁当で活用の手助けをしている。

 今月4日の豪雨発生を受け、水谷さんは5日、熊本に駆けつけた。熊本地震時の支援活動などを通じて面識のあった県庁の関係者と協議し、人吉市の避難所へのベッド導入作業に携わることになった。

 内閣府によると、ベッドはプッシュ型支援物資として4日、都内の立川防災基地に備蓄されていた分を即座にトラックで発送、6日に現地に届いた。水谷さんも、この時点から作業に関わったが「送られてきた品の強度などに不安を抱いた」という。

 これらは「国の調達基準に合致した製品。成田空港での新型コロナウイルス水際対策でPCR検査の結果を待つ人のために使われた実績もある」(内閣府)という。ただ、水谷さんは現場で試しに組み上げてみて、たわんだり、ぐらついたりする点などを懸念。高齢者が寝起きする時に体勢を崩して転倒する心配があり「レジャーや短期使用なら許容できても、長期に及ぶ避難生活には薦められない」と判断したそうだ。

 県の担当者と話し合い、より良い品を手配することになり、最終的に、県と供給協定を結んでいた南日本段ボール工業組合の調整で県内5業者が生産。10日、改めて現地に届いた。

 水谷さんは「もちろん導入はできるだけ早い方が良いが、状況からみて避難が長引くのは必至。高齢の避難者の健康維持を最優先に、何が望ましい選択肢かと考えた」と振り返る。

   ◆    ◆

 10日の午前、避難所内で設営が始まった。作業は手順に沿って計画的に進めなければならないという。

 水谷さんと同じく学会理事でもある、日本赤十字北海道看護大の根本昌宏教授によると(1)避難住民はもとより、自治体の災害対策本部や医療調整担当部門、避難所運営担当者、作業従事者や支援者が全員、ベッド導入について納得する合意形成(2)既に持ち込まれた私物のいったん撤去(3)床面の入念な清掃と消毒-を行って初めて、設営に取りかかるのが原則だ。

 しかも、ベッドは単なる寝具ではない。それを置くことで生活空間がつくり出されるとの観点から、その配置は(1)車椅子や支援物資を運ぶ台車などが通りやすい縦横の通路づくりを念頭に置く(2)家族構成も考慮して区画を仕切り、高齢者や乳幼児がいる場合は最適な場所を割り振る(3)食事を取るなどのコミュニティースペースは分離-など、避難生活の質確保に留意する必要があるという。

 根本教授は「ベッドの配置を最善にするためにも、最初の合意形成が何より大事」と指摘する。問題があれば後でやり直せばよい、といった安易な考えは禁物だという。

 水谷さんも、こうした原則に基づき作業を進めた。県が関与したことで合意形成は、思ったよりスムーズだった。住民に私物を片付けてもらう際の一時保管用ポリ袋、名札代わりに使う粘着テープなど小物の準備も忘れてはならない。

 誰が設営作業をするのかも、相変わらずの課題だった。今回も北海道胆振東部地震の時と同様、自衛隊の協力が得られ、即応予備自衛官の尽力があった。

 根本教授は「学会として段ボールベッド導入のためにやるべき事項の整理はできているが、それに従い実際に現場で采配できる人材は、全国的に見てもほとんどいないのが実情」と話す。北海道では胆振東部地震の教訓を踏まえ、迅速に対処できるよう自治体、住民レベルで準備の取り組みが始まっているという。

 次回(8月5日付)で、段ボールベッドの効能や利点を含め、活用への課題をまとめて報告する。

(特別編集委員・長谷川彰)

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