濁流から守った“秘伝のたれ” 老舗うなぎ店「なんとか再開させたい」

「土用丑の日」も片付けに追われる

 熊本県南部を襲った豪雨では、人吉市中心街の飲食店も甚大な被害を受けた。創業100年を超える老舗うなぎ専門店「しらいし」は店舗1階が完全に水没。書き入れ時のはずだった21日の「土用丑(うし)の日」も片付けに追われた。それでも店主が前を向くのは、濁流から守り抜いた「秘伝のたれ」の存在があった。

 店は球磨川や支流の山田川のほど近くにある。4日午前4時ごろ、店舗兼自宅にいた4代目の白石純子さん(71)は、けたたましく鳴る携帯電話の緊急速報メール音で目を覚ました。2、3時間後に床上への浸水が始まると、55年前の大水害の記憶がよみがえった。

 当時高校生だった白石さん。「押し寄せる感じで水が来て、あっという間に水かさが増した。今回はその時以上でしたけれど」

 とっさに夫俊彦さん(76)に声をかけた。「お父さん、たれをお願い」。俊彦さんは数十キロもあるたれの入ったつぼを持って2階へ。白石さんは壁に掛けてあったのれんを手に階段を上った。その後、みるみる水位は上昇。30分もしないうちに2階の床まで達した。

 水が引くと悪夢のような光景があった。ウナギは全滅。テーブルやいす、食器もだめになり、壁や天井にはカビが生えていた。しかも新型コロナウイルスの影響で休業していた5月に店内を全面改装したばかり。そんな中、唯一の希望が秘伝のたれだった。

 店はもともと川魚料理店からスタート。白石さんの父親の代でうなぎ料理を始め、たれは70年近くつぎ足してきた。県外に住む姉妹からも被災後、たれの“安否”を心配されたほどだ。

 「こんな土用丑の日は初めて」とため息をつく。物心ついて以来「ずっと忙しくしていた」特別な日だったが、営業できずに清掃作業に専念した。片付けは終わらず、再出発の時期も見通せない。それでも、手元に残ったたれを見つめ、白石さんは言う。

 「代々の預かりものという意識があるから、とっさに行動できた。5代目となる長男に渡すのが自分の責任。なんとか再開させたい」

(小川祥平)

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