「移民差別繰り返すな」日系人がトランプ政権にNO 強制収容背景に

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 第2次大戦下の米国で強制収容された歴史を持つ日系人たちが、トランプ政権の不寛容な移民政策に対し「差別政策を繰り返すな」と抗議の声を上げている。折しも新型コロナウイルス感染拡大を機とするアジア系への差別行為や、白人警官によって黒人の命が奪われる事件が続発。米社会に巣くう人種問題に改めて注目が集まる中、彼らは11月の大統領選にマイノリティー(少数派)の声を反映させようと奔走している。 

 白人警官による黒人暴行死事件への抗議デモが熱気を帯びていた6月上旬。ホワイトハウスを取り囲むように設けられたフェンスの前に、折り鶴を手にした数人の日系人がいた。

 「移民の命も黒人の命も大事だと政権に伝えよう」。1人がこう訴え、折り鶴をフェンスにくくり付け始めると、様子を見ていた黒人女性たちも加わった。

 同じ日、西部カリフォルニア州サンフランシスコ郊外では、日系3世サツキ・イナさん(76)がトランプ大統領の移民政策や黒人暴行死などマイノリティーを巡る社会の不公正に怒りの拳を突き上げた。「今こそ人種を超えて一緒に立ち上がろう」

 この日、国内7カ所で行われた日系人主体の抗議活動は市民団体「ツル・フォー・ソリダリティ(団結のための折り鶴)」が計画。イナさんはその発起人だ。

 排斥に抗議

 イナさんは収容所で生まれた。戦時中、一家は米国の差別に基づく強制収容政策によって離散を強いられ、生活は過酷を極めた。

 イナさん自身に当時の記憶はないが、学生時代に白人から「ジャップ(日本人の蔑称)」と怒鳴られるなど差別や偏見を受けてきた。心理学者になるため読んだ論文は全て白人目線。あらゆる面で白人を中心に回る米社会の構造こそが、無意識の言動を含む差別の根底にあると確信している。

 移民問題への関わりを強めたのは2015年。心的外傷(トラウマ)の専門家として当時のオバマ政権下で運用されていた中米移民の収容施設を調査したのがきっかけだ。「刑務所のような閉鎖空間に、おびえた目で母親にしがみつく子どもたちがいた」

 不法移民の厳格な取り締まりを公約に掲げるトランプ政権下で、移民の親子が引き離されて拘束されるなど状況は悪化している。母から聞いた強制収容所の話が目の前の現実と重なった。「米国の負の歴史を知る日系人が、移民の苦しみに背を向けてはいけない」

 日系人社会の中には、過去の収容と現在の移民の拘束は無関係だとしてイナさんの考えに反対する人もいた。それでも「移民たちに『心配している人が大勢いる』と伝えたかった」。

 19年、収容施設閉鎖を求める抗議活動を始めた。南部の州にある施設の前などで、日系人の象徴として平和や希望の祈りを込めた折り鶴を掲げ、和太鼓を打ち鳴らしながら声を上げている。協力の輪は日系4世など若い世代にも広がった。

 人種超えて

 終戦75年、大統領選もある今年、イナさんはホワイトハウス前で大規模な抗議集会を計画したが、コロナ禍で断念を余儀なくされた。一方、黒人やヒスパニック(中南米系)に感染者や失業者が急増し、コロナ禍が最初に起きた中国への不信からアジア系全体への憎悪犯罪(ヘイトクライム)が相次いだ。さらに黒人が犠牲となる事件が頻発し、マイノリティーの怒りが全米で噴出した。

 そのさなか、イナさんたちは7カ所の会場をインターネットでつなぐなど2日間にわたり集会を中継。予想を超える約1万5千人が視聴した。人種を問わず連帯を訴えた参加者らの声は好意的に受け止められた。

 トランプ政権への抗議デモの常連というワシントン在住のヒスパニック女性(55)は「日系人は高学歴のエリートが多いという印象があり、マイノリティーとはいえ距離を感じていた」と驚きとともに歓迎。ホワイトハウス前で一緒に折り鶴を手にした黒人女性(33)は「今、米国に必要なのは人種を超えた思いやりだ」と語った。

 投票率向上

 手応えを感じるイナさんは、現在も続く「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」運動のデモに参加しながら、次の目標を大統領選に据える。目指すのはマイノリティーの投票率向上だ。

 マイノリティーは伝統的に民主党支持者が多い。だが前回16年の大統領選の投票率は人口の6割を占める白人が65%だったのに対し、黒人は60%を割り、ヒスパニックやアジア系は50%に届かなかった。マイノリティーの無関心がトランプ氏勝利の一因になったと指摘される。

 反対に、トランプ政権の審判と位置づけられた18年の中間選挙では黒人やヒスパニックの投票が急増し、連邦議会下院で民主党の躍進につながった。

 イナさんは各地の日系人に呼び掛け、マイノリティーが多く住む地域に出向いて「投票しないのはトランプに投票するのと同じだ」と訴える運動を計画する。

 日系人はマイノリティーの中でも少数派だ。活動には限界があるとの見方もある。だがイナさんは意に介さない。「人種間の連携を広げ、選挙に大きな影響を与えることは可能だ」と力を込めた。 (ワシントン田中伸幸)

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