夏目漱石の小説「三四郎」で、九州から上京した主人公の若者は…

西日本新聞 オピニオン面

 夏目漱石の小説「三四郎」で、九州から上京した主人公の若者は東京の最新風物にいたく刺激を受ける。その一つが娘義太夫。若い女性たちが演じる声や表情に、時の青年たちは熱狂したという

▼中でも熱心なファンは「どうする連」と呼ばれた。語りの途中で「どうするどうする」と、客席から合いの手を入れたため命名されたそうだ

▼さらに熱が入ると、ひいきのグループごとにそろいのはんてんを製作。お目当ての芸人が乗る人力車を追っかけていくようになる。明治20年代の話であるが、現下のアイドル事情と何と似通っていることか

▼中には度を過ぎた者も現れた。芝居小屋に通い詰めて学校に行かなくなる。学費まで使い込み、実家からの仕送りにも手を付ける。過熱ぶりに政府は学生の娘義太夫の出入り禁止令を出したが、効き目は薄かったという

▼現代にも暴走するファンはいる。新潟を拠点とするアイドルグループのメンバーを中傷したとして先週、50歳の男が名誉毀損(きそん)容疑で逮捕された。覚醒剤中毒であるかのような書き込みをしてイメージダウンを狙ったそうだから、悪口の域ではない

▼言葉にとどまらず、最近はファンから傷害行為を受ける事件も目につく。ファンとの「距離の近さ」は現代アイドルの売り。誰もが楽しめるように、周囲には細心の気遣いを願いたい。それにしても。50にもなった男がこんな事件を起こして、どうする。

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