「このままでは死ぬかも…」引きこもり経験者、就労までの道

引きこもり経験者に聞く(下)

 引きこもりに悩む人や、家族に必要な支援とは何か。21歳から4年間、自宅にこもった児玉光司さん(43)=福岡県飯塚市=は、立ち直りを無理強いしない支え方と、それを見守る寛容さを社会に望んだ。

 -引きこもり状態を脱し、現在はフルタイムで仕事をしている。どんな経緯で就労したのか。

 「自宅にこもる中で『このままでは死ぬかもしれない』と不安になり、意を決して保健所に相談しました。保健師さんは話をよく聞いてくれ、私の生活を脅かす危険もないので苦悩を吐き出すことができました」

 「そのうち病院に行き、重度のそううつ状態と診断されます。通院しながら、保健師さんの勧めで精神障害者向け作業所に通い始めました。昼夜逆転の生活が続いていたので、作業所に通いだすとつらい。それでも工賃を得られるので、家にいるよりましでした」

 「その後は県の就労訓練制度の一環で、食堂で朝に1時間の準備作業をしたり、午前中だけ工場で働いたり。人間関係に悩み、年間2カ月ほど就労不能になることが何度もありましたが、職場も事情を理解してくれました。その後、数年を経てフルタイム就労に。今もまだ、休日はぐったり倒れています」

 -支援の多くは当事者を外に出し、就労させることを目指している。どう考えるか。

 「本人の気持ちを考え、どうすれば外に出てくれるだろうかと努力する支援者はたくさんいます。でも、私には本人の気持ちとギャップがあるように感じるのです。引きこもりは、社会に適応できなかった人と強調されますが、逆に『家での生活に適した人』という点は意識されません。まともな社会人なら、こんな生活を経験する機会はないから、家にこもる大変さが理解できないと思うのです」

 -大変さとは。

 「当事者の多くは、親が最低限の生活保障をしてくれる世界で、青息吐息で生きています。そこでは緊張と不安を抱えながら、親子関係をうまく調整しなければいけません。親に対して、過剰なまでに気を使っています」

 「例えば、ストレスに耐えられず家で暴れても、母親には直接暴力を振るわないように注意します。時には家事を手伝って機嫌を取り、閉め切った部屋で筋トレして健康を維持します。ふとしたきっかけで父親が激怒するかもしれないと恐れ、部屋から出ないようにすることもあります」

 「支援者は、その異常な世界の住人を外に出そうとします。それは当事者にとって、努力して築いた生存環境を追い出されることを意味します。『ちょっと外の空気を吸ってみないか?』と言われても、本人は『生存が保障される環境が崩れたら、責任を取れるのか』と反発し、支えてくれる人を敵とみなすのです」

 -支援を拒むと引きこもり状態が続くのでは。

 「その通りです。ただ、私は今の就労ありきの支援では、当事者は受け入れにくいと考えます。多くの支援が就労をゴールとしているのは、日本社会ではサラリーマンが圧倒的に多く、会社に時間と技術と労力を提供し、給与をもらう生活が一般的だという認識があるからです。それが多数派なので、就労こそ唯一の支援と考えるのは仕方ないことだと思います」

 「就職氷河期世代で40代まで引きこもっていた人が就職し、14万円ほどの初任給をもらっても、逆に劣等感や生きづらさを感じるのではないでしょうか。同年代の多くは責任ある役職となり、より高い収入を得ていることでしょう。就労ありきの支援は、結果的に当事者を自暴自棄にさせ、犯罪や自殺の増加につながるのではと心配します」

 「部屋を出ることと、定職に就いて自立することは別次元の話です。就労ありきの支援は、当事者に『いまさら働いても人並みに稼ぐのは無理だ』と自覚させ、支える側にも『無理に就労させても、すぐ辞めるので会社に迷惑をかける』と認識させます。双方にあきらめを生じさせる危険性をはらんでいると思います」

 -どうすればいいのか。

 「本人が『ただ、社会の中にいてもいいんだ』と感じられる支援が必要だと考えています。会社に毎日行かず、働かない。代わりに『僕は時間があるから、姉ちゃんの子どもの面倒を見るよ』と声を掛けたり、『報酬を出すから、ちょっと仕事を手伝って』と頼まれたりする。そんな生き方を社会が認めれば、暮らしやすくなります」

 「当事者も『就職していないことはよくない』と感じています。ただ、フルタイムで延々と働けないだけなのです。せっかく引きこもりを抜け出しても、支援者の『働き始めたら何とかなる』という考えや、『もう少し頑張ろう』との応援に心が折れ、二度と働かなくなるケースもあります」

 「引きこもりは放置すれば悪化します。しかし、無理をさせすぎれば絶望します。無理ならゆっくり休んで次を探せばいい。そんな支援こそ、苦しむ人をつまずきから立ち直らせ、社会参加を促すのではないでしょうか」 (聞き手は山下真)

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