映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」一人の議員を通し政治を問う

西日本新聞 吉田 昭一郎

 政府の統計不正や「桜を見る会」の問題で安倍晋三首相を追及した衆院議員、小川淳也氏(比例代表四国)を国政初挑戦時から追ったドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」(大島新監督、119分)が全国公開されている。「社会を良くしたい」という志を持ちつつ、政治の現実に葛藤を抱える一政治家の姿は、政治とは何か、どんな政治家が必要か、見る側に問いかける。

 大島監督は、妻が小川氏と同じ高校の同学年だった縁から、小川氏が香川1区に民主党公認候補として初めて衆院香川1区に立候補した2003年からカメラを回した。当時、小川氏は、大島監督の取材に「やるからには自らトップに立って国のかじ取りを」と政治家としての意欲を語っていた。2009年、初めて香川1区の小選挙区で当選し民主党政権が誕生した時は「政治を変える」と目を輝かせた。

 しかし、2012年、民主党が衆院選で敗れ、安倍政権が誕生すると、野党議員としての苦闘が始まる。誰を支持するか迷った民進党首選、希望の党への民進党「合流」騒動に葛藤し、直後の衆院選(17年)ではどの政党に公認申請するか悩み続けた。最終的に希望の党から立候補するが、街頭で有権者から「安保法制反対しとったじゃろうが。イケメンみたいな顔しやがって心は真っ黒やないか」と批判を浴びる。映画はそうした舞台裏や現場の素顔を映し出す。

 政治家2世でも親が資産家でもなく、普通の家庭の生まれ。東大卒の元官僚で、社会保障などの政策に精通するが、当選5回のうち4回は選挙区で敗れ、比例復活と発言力はいまひとつ。

 政治に必要なのは「誠意」ではなく「ただ一つ、したたかさだけなのか、という無力感に襲われることがある」とこぼす。周囲から「政治家に向いていないのでは」と時に評され、権力欲の薄さを自ら認めるが、政治の理想を追求する愚直な情熱を見せる。撮影とインタビューでとらえる小川氏は、旧来の政治家らしくないところがある。

2017年、衆院選香川1区で敗れ、うなだれる小川淳也氏ⓒネツゲン

 

学生たちに受けた一生懸命な訴え

 西南学院大の田村元彦准教授(政治学)は、この映画に注目。7月12日、福岡市のKBCシネマで見た後、小川議員をゼミの学生たちと囲む機会を持った。

 田村准教授によると、小川氏は学生たちに熱心に政策を論じた。「政治家が若者にフレンドリーに接する、というようなことではなく、きれいごとのプレゼンテーションでもない。学生たちに対等に向き合い、社会保障について自身の問題意識を一生懸命に伝えようとする。最初はちょっとドン引きする学生もいたが、政治家としては不器用でも、学生たちにはそれが受けた」。少子高齢化が加速する中、社会保障を維持し福祉国家を目指すには、消費税増税など負担増がさらに必要になると、正面から訴えたという。

 新型コロナウイルスの感染拡大に向き合う世界各国のリーダーの言動が話題になった。コロナ対策で成果を上げたドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相らは国民に対する科学的で丁寧な説明で信頼を得た、と伝えられた。メルケル首相は「民主国家にあって自由を制約したくないが、みなさんの命を守るために…」などと国民に語りかけた。

 田村准教授は両首相を評価しつつ「ウィズコロナ、ポストコロナの時代は、厳しい現実を現実として、隠したり偽ったり粉飾したりせずに国民に説明し、それを国民みんなで共有し、未来のために解決策を見いだしていく。そんな政治家が求められている」と指摘。「コロナ禍の下、日本の国民は息を潜めて、しっかりと今の政治家の振る舞いを見ていると思う。この映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、小川議員の評価とは別に、これからの日本では、どんな政治家がいいのか、それぞれが考える大きなヒントになるのではないか」

縁故や利権、業界・団体益への偏重はノー

 映画を見ながら、どんな政治家が求められるのか、考えた。強権政治は論外だろう。縁故や利権、一部の業界・団体の利益に偏る不公正な政治もだめだ。公文書や統計を偽造したり隠蔽(いんぺい)したりして現状を正しく伝えない政治は信頼を得られず、難局を乗り越えられない。

 求められるのは公平公正さだ。説明能力も必要だろう。過剰な権力欲は有害無益だが、熱情がないと始まらない。厳しい現実だけではなく夢や希望も描いてほしい。そんなあれこれがちらちらと思い浮かぶ映画である。(吉田昭一郎)

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