強者が勝ち、弱者が負ける 歴史社会学者 小熊英二氏

コロナと経済社会 変革への視座

 -新型コロナウイルスの感染拡大は、社会の転換点になるか。

 「世界が密接につながる現代文明のもろさが露呈したと思う。しかし、根本的な変化が起こるとは思わない。むしろ従来構造のまま、強者が勝ち弱者が負けるトレンドが進むだろう。東日本大震災の時も、被災地では過疎化と高齢化がいっそう進み、中核都市への集中が加速した。歴史的に見ても構造は簡単に変わらない。構造が壊れるほどの大衝撃の場合は、新たな構造ができるまでに何十年もかかる」

 -過去の大衝撃とは。

 「1929年の世界大恐慌は自由貿易体制が壊れ、新たな貿易秩序再建に50年代後半までかかった。その間、革命や戦争、信用危機が起き、国際取引や貿易ができなくなった。今回はそこまでの激変になるように見えないし、そんな大惨事になってほしくない」

 -働き方が見直される契機になるか。

 「見直しは起きるだろうが、抜本的変化は難しい。海外のように職務と責任分担が明確な働き方の方が在宅勤務などのリモートワークも進みやすいことは認識されただろう。だが、企業を越えて通用する人材の客観的な評価基準が必要で、簡単に転換が進むとは思えない。むしろ、パソコンのウェブカメラで上司が監視し、通勤しなくてもオフィスの大部屋で働いているのと同じような『日本型リモートワーク』の方向に進化するかもしれない」

 -いま何が必要なのか。

 「職務、評価基準の透明化と明確化だ。経団連は日本型雇用慣行の見直しを唱えているが、財界は50年前から中高年の賃金コストを下げるために同じようなことを言っていた。90年代には成果主義が導入されたが、米国型の目標管理制度は職務範囲や評価基準が明確であることが前提で、日本では機能しなかった。結局進んだのは、非正規雇用の拡大や昇給抑制で賃金コストを削ることだけで、日本型雇用の基本は変わらなかった」

 -地方への移住が進むとの指摘もあるが。

 「気分先行ではないか。地方移住ブームは40年前からあるが、憧れる人は多くても実行する人は少ない。安定した高収入の職が地方には少ないからだ。大企業で安定的に高収入を得ながら地方で遠隔勤務する人が出るとしても少数だろう」

 -格差は広がるか。

 「格差はどの国でも広がっている。日本の特徴は、輸出大企業が不況の時に、サービス業などの中小・零細企業が失われた雇用を吸収していたことだ。70年代の石油ショックや2008年のリーマン・ショックがそうだった。だが今回は中小・零細が打撃を受けている。貿易停滞が1~2年続き、大企業が下請けを切り始めたら、かなり深刻な事態になるかもしれない」

(聞き手は古川幸太郎、一瀬圭司)

小熊英二氏(おぐま・えいじ) 1962年生まれ。東京大大学院修了。現在、慶応大総合政策学部教授。専門は歴史社会学。膨大な資料を基に近代日本の社会の仕組みなどを明らかにする研究を続けている。主な著書に「<民主>と<愛国>」「日本社会のしくみ」など。

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