過疎こそ最大の感染症対策だ 農民作家・山下惣一さん

西日本新聞 社会面 竹井 晋治

 新型コロナウイルスはグローバリズムが抱えるさまざまな問題を明らかにした。農業も例外ではない。

 冷戦崩壊後、貿易自由化が進むと「自動車を売って、食料は価格の安い外国から買えばいい」という風潮が広がった。その結果、日本の食料自給率はカロリーベースで37%(2018年度)にまで落ち込んだ。しかし今回、ロシアやベトナムが穀物の輸出制限の動きを見せた。いつまでも経済大国でいて、いつまでも食料を(他国から)買ってくることができるのだろうか。

 外国からの技能実習生の入国も制限され、困っている生産地もある。そもそも、自分の子どもには農業を継がせず、安い労働力に頼るやり方は本末転倒に見える。

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 世界では輸出を主力にする「大規模企業型農業」より、地産地消型の「小規模家族農業」を再評価する動きが強まっている。

 国連は14年を「国際家族農業年」として、家族農業の重要さを確認。19~28年を「家族農業の10年」とすることを定め、加盟国・関係機関が施策を展開することになった。

 農林水産省のホームページによると、日本の農業経営体(15年)の97・6%が家族経営。欧州連合(EU)も96・2%(13年)、米国でも98・7%(15年)。14年世界食料農業白書によると、生産額の80%以上を家族農業が生み出している。農業の主力と言っていい。

 量販店が商店街をつぶしていったように、大規模企業型農業は安い価格で家族農業を圧迫する。そして、利益が出なくなれば撤退する「焼き畑式」。広大な土地、大量の水、肥料を使うが環境への負荷などを考えると効率がよいとは言えず、持続可能なのか、世界が疑問視しているのだ。

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 今回のコロナ禍では都市の弱さも明らかになった。ウイルスは次々に新しいものが発生する。「3密」が起きる都市の環境を維持したまま、ウイルス対策を行うことは難しい。水道の蛇口を開けたまま、バケツの水をくみ出しているようなものだ。

 過疎こそが最大の感染症対策。私は緊急事態宣言中はほとんど地域から出ず、ミカンの剪定(せんてい)をして過ごした。「人と会うな」と言われても、もともと人は少ないし、高齢者夫婦2人暮らしでは欲しいものも少ない。

 農村は今回のような非常時に強い。私たちのやっている家族農業は利潤を求める「産業」ではない。自給を中心にした「なりわい」だ。金ではなく物を中心に暮らしている。だから、リーマン・ショックでも、コロナ禍でも、ほとんど苦痛を感じなかった。

 農業、農村を経済だけで考えると誤る。環境を守り、命を支える「社会の土台」だ。今回のコロナ騒ぎでこれが、はっきりしたと思う。

(聞き手・竹井晋治)

◆山下惣一氏(やました・そういち) 1936年、佐賀県唐津市生まれ。農業に従事する傍ら、文筆活動を続ける。「小農救国論」など著書多数。小農学会共同代表。2003年、西日本文化賞。同市在住。

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