災害時、特養の高齢者どう守る?「前もって分散避難を」

西日本新聞 くらし面 河野 賢治

石踊紳一郎さんに聞く

 九州を襲った豪雨で、熊本県球磨村の特別養護老人ホーム(特養)「千寿園」が浸水し、入居者14人が亡くなった。特養の高齢者は災害時、手助けがないと避難できず、施設を出ても受け入れ先の確保が難しい。公益社団法人・全国老人福祉施設協議会(東京)特別養護老人ホーム部会長で、鹿児島県錦江町の特養「青山(せいざん)荘」の施設長を務める石踊(いしおどり)紳一郎さん(65)に対策を聞いた。 

 -災害時の避難で、特養にはどんな難しさがある?

 「入居者は避難するのに手助けが必要で、スタッフだけでは人手が足りないことがありうる。周辺も被災しているだろうから、住民の協力も望みにくい」

 「仮に避難所に行っても、1カ所に大勢を受け入れてもらうのも難しい。その間もケアは必要で、職員が相当数、同行する必要がある。そう考えると、どうしても施設にとどまらざるを得ず、そこでどう対応するか、という状況になっている。そこが一番の問題点」

 「各施設は防災ハザードマップを見て、避難計画を自治体に提出するなど、どんなリスクがあるか把握している。ただ、被害が予想されても『自分の所は大丈夫』と思い込みやすい」

 -考えられる対策は。

 「豪雨の予報が出て被災しそうな場合、前もって他の特養などの介護保険施設や病院に、お年寄りを数人ずつ受け入れてもらうのが現実的ではないか。特養はショートステイ用のベッドを持つところが多く、近くにある複数の施設に『分散避難』させる形。高齢者が居住環境の変化で混乱するのを防ぐため、職員も付き添ってケアを継続する。これを行政に認めてもらう必要がある。行政や施設間で空きベッドなどの情報を交換しておく連携も大切だ」

 「この場合、施設への介護報酬をどうするかが課題。ショートステイなどで受け入れる側は、その分の報酬を受け取るのが自然だろう。では、被災しないため高齢者を避難させた施設への報酬はどうするか。高齢者に付き添い、しばらく受け入れ先で働いた職員の人件費はどうするか。国全体で議論していくべきだ」

 -災害の恐れのある場所に建設するのを控えるべきだ、という声もある。

 「行政は特養を建設する時、事業者を公募で選ぶことが多い。ただ、特に29床以下の『地域密着型』の特養は、定員が少なく採算が合わないとして応募が少ない傾向がある。公募しても応募が1事業者しかないことも。介護保険事業計画で、その年度内にどうしても建設する必要があると、危険性が多少あってもゴーサインを出すことになりかねない。だからこそ、行政は危険な場所への立地を控えるガイドラインを作る必要がある」

 -施設を2~3階建てにすると、洪水対策に有効かもしれない。

 「熊本の豪雨でも『水かさが急に増した』という声が多かった。新設する特養や、建て増しのできる施設を2~3階建てにするのは有効だが、財源の措置が必要だ。また、平屋の中には、2~3階建てへの改修が念頭になく、平屋のままの基礎部分の強さしかない施設もある。この場合は難しい」

 -職員数の少ない未明や早朝の豪雨に備えるため、夜勤を増やすことは?

 「特養の場合、夜勤を1人でも増やすと、昼間の職員数が確保できなくなる。夜勤を増やすなら、新たに3人ほど雇う必要があるだろう。介護職は人手不足で求人を出しても応募がほぼない。新規雇用は難しい」

 「現状で多いのは、台風接近の前日から職員が職場に泊まり込んで備えるケース。ただ、こうした対応をしても特に介護報酬の上乗せはない。施設側が独自に手当を支払ったり、食事を提供したりしているのが実情。高齢者が災害で犠牲になるのを防ぐため、介護報酬に『災害対応加算』のようなものを新設してはどうか。職員が前日から泊まり込み、対応したから命が助かった-という実績がある場合、介護保険の保険者が加算分を支払うかどうかを決める。そんな運用ができるといい」

 「特養とは別だが、認知症の人が共同生活するグループホームは、入居者9人に対して職員1人が夜勤をするルールになっている。今回の被害を考えると、1人で大丈夫かという疑問がある。この対策も必要だ」 (聞き手は編集委員・河野賢治)

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