あの映画その後

原発輸出頓挫…安倍政権の「逆噴射」の果て、自然エネが救世主に

西日本新聞 吉田 昭一郎

あの映画その後 震災原発事故10年目へ~「日本と再生 光と風のギガワット作戦」(2)      連載「あの映画 その後」の第4部で取り上げるドキュメンタリー映画「日本と再生-光と風のギガワット作戦」(2017年、河合弘之監督)は、立ち遅れた日本の再生可能エネルギーの普及をさまざまな角度から呼びかけた作品だ。再生エネは今、新型コロナ後の「グリーン・リカバリー」(持続可能な経済復興)の柱として、世界的にますます脚光を浴びる。認定NPO法人「環境エネルギー政策研究所」の飯田哲也(てつなり)所長は、日本の現状に厳しい視線を向けている。

テスラの快走と日本自動車の危機

 米国の電気自動車(EV)会社「テスラ」の株式の時価総額が7月1日、トヨタ自動車を抜き自動車メーカーで世界一になった。地球温暖化に対する脱炭素化の潮流に乗って、評価はうなぎ上りだ。

 時代の最先端は既にEVマイカー時代のその先に向かう。「自動運転のEVをシェアし、スマホで呼ぶと、いつでも来てくれてどこにでも行ける。移動サービス『MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)』が、10年後には社会に定着し、車を個人が持つという生活スタイルがなくなる、とスタンフォード大教授のトニー・セバが予言しています。MaaSの実現へトップを走るのが、テスラであり、グーグルであり、ファーウェイ(華為技術)など中国勢ですよ」

 「日本の自動車メーカーは水素の燃料電池車の開発という間違った経営判断などで周回遅れとなり、ようやくEV生産に取り掛かりましたが、自動運転技術で遅れ、ライドシェア(自動車の相乗りビジネス)でも遅れて、挽回できないかもしれません。遠くない将来、日本の自動車産業は大崩壊を起こす恐れもないわけではありません」

EVの価格、ガソリン大衆車並みへ

 化石燃料から再生エネへのエネルギー転換と同時並行で、ガソリン車からEVへの乗り換えが進む。ガソリン・軽油市場は今後10年で消滅するという予測もあるという。

 「EVの価格の高さは心臓部の蓄電池の高さが由来ですが、蓄電池の価格はこの10年で5分の1というペースで下がっています。EVの価格はすでにガソリン高級車ほどまで下がり、2、3年後には大衆車水準になると思う。EVはガソリン車に比べて部品が圧倒的に少なく修理・維持費は少なくて済む。自然エネルギー(再生エネルギー)の普及に連れて“燃料代”も下がっていきますよ」

 ガソリン車より環境にやさしい上に値段も安いEV全盛時代が現実味を帯びている。販売台数がEV36万台しかないテスラの株式の時価総額が、1千万台のトヨタを上回る理由の一つがそこにある。

 「テスラは今すごい。頭脳部分のAI(人工知能)、IT(情報技術)を持ち、自動運転用のチップを自前で設計し製造しています。蓄電池も生産工場を各地にどんどんつくっている。車載用だけでなく、再生可能エネルギー発電と連動して世界最大の大型蓄電池をオーストラリアに設置し、大きな利益を上げながら、地域電力の安定供給にも貢献しているほどなのです」

 「日本の自動車業界には、テスラのような自前のAI、IT技術はなく、そうしたデジタル企業との提携の動きを見せている。MaaS時代となれば、頭脳はテスラ、グーグル、ファーウェイなど米中勢、自動運転車の本体製造は中国、ライドシェア(相乗り)サービス分野は米中勢がそれぞれ担う可能性が高い。水素にうつつを抜かし、新時代の本流への対応が遅れた日本の業界は、危機的状況にあると思います」

米国防総省で空軍の担当者に再生可能エネルギーの導入状況を聞く河合弘之監督(中央)と飯田哲也さん(右)ⓒKプロジェクト

 

原発輸出策、日本企業が総崩れ

 福島第1原発事故(2011年)の翌年誕生した安倍政権は、再生エネへの本格転換の道を選ばず、原発の再稼働を進めると同時に「成長戦略」として原発の海外輸出に力を入れた。

 しかし、原発反対の民意は根強く再稼働は思うように進まない。原発輸出で、東芝は米国での建設計画に失敗し多額の負債を負う。日立製作所は英国での計画を凍結し、三菱重工業はトルコでの計画から撤退するなど、総崩れとなった。背景に、同事故を受けた安全対策費の増加があるという。この間、再生エネ導入では、欧州や中国に大きく後れを取ることになった。

 「日本が社会・経済のデジタル化、グリーン化に乗り遅れているところに、安倍政権が原発輸出と石炭火力依存など旧態方向に『逆噴射』をかけてしまった。その結果、高度成長をけん引した大手企業が厳しい状況に陥った。これで自動車産業がだめになったら、日本はどうなるのか。新型コロナウイルスに見舞われる中、国内外の多くの有識者が自然エネルギー発電や省エネへの積極投資を呼び掛けています。その方向は間違っていないし、日本の道はその方向しかないのではないでしょうか」

 戯画的に言えば、再生エネは、今や世界的に難局下の「救世主」という存在に押し上げられている。

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