組幹部は総裁らの関与否定 歯科医師刺傷事件 【工藤会トップ裁判】

西日本新聞 社会面

〈マンスリー報告 7月〉「普通の青年」襲撃に葛藤

 特定危険指定暴力団工藤会トップで総裁の野村悟被告(73)とナンバー2の会長田上不美夫被告(64)の公判は、歯科医師刺傷事件(2014年5月)の証人尋問を終えた。検察側は、歯科医の親族証言を通して会の組織的犯行を示そうとしたが、現場指示役とされる組幹部=組織犯罪処罰法違反罪などで公判中=は野村被告らの指示を否定。実行犯の元組幹部=懲役30年が確定=は「普通の青年」のような歯科医を見て、襲撃をためらった心中を明かした。

漁協利権狙う?

 ≪北九州市が打ち出した大規模港湾事業では巨額の漁業補償が見込まれ、漁協幹部だった歯科医の父親は交渉のキーマンだった。検察側は、漁協利権に強い関心を示していた会側が、父親を屈服させることで利権獲得を狙ったという構図を描くが-≫

 市職員 同市若松区の海面を埋め立て、廃棄物処分場を整備する事業に携わった。影響を受ける地元漁業者に補償金を支払う必要があり、11年に父親らに事業計画を説明した。特に反対意見はなく、15年に補償契約を結んだ。

 親族男性 14年ごろから、田上被告に地元漁協の権限について何度も尋ねられた。同年2月に田上被告と会った際には、怒った様子で「(父親は)まだ分からんのか」「危害を加えたくないが、俺だけの考えじゃどうにもできん」「これは会の方針やけの」と告げられた。

 同月の漁協役員会で、父親に「工藤会は本腰を入れてきている」「会の方針でやっとるので、おどしやないぞ」と伝えたが、「その話はもういい。聞いてないことにする」と言われた。

 事件の約2カ月後、田上被告に襲撃の理由を尋ねると「(父親が)分からんけ、やるしかねえやねえか」「警察は守ってくれんのぞ」と言われた。

 弁護側 事件直後、警察官から背景や原因について聞かれなかったか。

 親族男性 「心当たりはないか」と聞かれたが「一切分からない」と答えた。

 検察側 15年1月、あなたが田上被告から聞いた発言が調書になっている。なぜ話そうと思った。

 親族男性 子ども(歯科医)を傷つけられて悲しみ、落ち込んでいる父親の姿を見るのが嫌になった。正直、工藤会は恐ろしい組織だが、自分の知っていることは言わなければならないと思った。

指示役は語らず

 ≪事件の最大の焦点は、裁判所が野村、田上両被告の指示があったと認めるかどうか。現場指示役とされる組幹部は自身が関わった内容を詳細に語る一方、指示を出した人物については証言を拒み、両被告の関与を否定した≫

 組幹部(1) 14年3月末、ある人物から歯科医について調べるように言われた。組員に行動確認を指示し、出勤時間を把握した。同年5月中旬には歯科医を刺してけがをさせることになり、実行犯や送迎役、逃走経路を決めた。

 組幹部(2)=一、二審で懲役23年、上告中=には事件に使うヘルメットや作業着、凶器になる果物ナイフのようなものを用意してくれと頼んだ。実行犯に対しては「殺すわけやない。けがさせればいい」と言った。

 検察側 あなたに襲撃を指示したのは誰か。

 組幹部(1) 話すことはない。

 検察側 野村、田上両被告か。

 組幹部(1) いいえ。事件は(会最大の2次団体)田中組の一部が起こしたことは間違いないが、会が組織的にやったとか、総裁が共謀した事実はない。

 組幹部(2) 組幹部(1)から防犯カメラのない道順を逃走経路として伝えられ、送迎役の元組員に教えた。凶器の準備については本当にしていない。何か悪いことをするとは思ったが、人通りがある時間帯に襲うとは思わなかった。

座り込む実行犯

 ≪刃物を手にした実行犯の元組幹部は、被害者を目の前に一瞬、座り込んだと証言。「普通の青年じゃないか」。元組幹部は混乱しながらも、襲撃に至った状況を振り返った≫

 元組幹部 事件の2週間前に組幹部(1)から「仕事あるけん」と言われ、3日前に一緒に現場の下見に行った。道中の車内では「ある男を襲撃してほしい。尻かももを5、6回、シャシャッと刺してほしい。殺せというわけではないから深く考えるな」と指示された。浅く、早く刺すことだと理解した。

 襲撃対象は組幹部(1)とトラブルを起こした素行の悪い人間を想像していた。襲撃直前に歯科医を見て、普通の青年だったので驚いた。(襲撃を)ちゅうちょし、5秒間くらい座り込んでしまった。

 立ち上がり、近づいて刺したが、混乱していたと思う。送迎役のバイクで逃げるまであまり記憶がない。指示通りに襲撃したと思っていたが、逮捕された後に歯科医の傷の写真を見たら、本当に自分がしたことかと驚いた。

 医師 事件直後に歯科医を治療した。腹部の刺し傷はあと5センチ深ければ大動脈に達する恐れがあった。胸部の傷は骨に達し、1、2センチずれていれば心臓や肺を損傷した可能性もあった。凶器は刃渡り7センチ以上で、深く刺せる鋭利なものと考えられた。

 弁護側 刺した力の強さは想定できない。

 医師 その通り。

 弁護側 (刺した場所がずれていても)同じ力で本当に心臓まで達したか、分からないのでは。

 医師 そう。

報酬か支度金か

 ≪事件後、送迎役の元組員=懲役18年8月が確定=は組幹部(2)から現金を受け取ったという。弁護側は、現金が報酬ではなく新たな役職に就くに当たっての支度金ではないのかとただした≫

 元組員 実行犯を現場までバイクで送迎した。事件3日前、組幹部(2)と下見に行った際には、2人で「やりたくない」と話した。

 事件の1週間後、(田中組)組事務所で組長秘書から「おまえが組長の運転手だ」と言われた。その後、組幹部(2)から現金25万円が入った封筒を手渡された。「こないだの事件(の報酬)かな」と思った。事件の約2カ月後には自宅が家宅捜索され、携帯電話などが押収された。組長に説明すると「そんなにおびえんでもいいぞ」と言われた。

 弁護側 運転手になると背広やネクタイを用意しなければならない。25万円はその支度金では。

 元組員 何のお金か説明されてないから分からない。 (工藤会トップ裁判取材班)

【歯科医師刺傷事件】2014年5月26日、北九州市小倉北区の駐車場で男性歯科医師=事件当時(29)=が胸や背中を複数回刺され、重傷を負った。地元漁協組合長だった歯科医の祖父は1998年に、市漁協組合長だった祖父の弟は2013年に射殺された。福岡県警が15年5月、組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)の疑いで野村悟、田上不美夫両被告らを逮捕、計7人が起訴された。

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