オランダ・アムステルダムで7年前…

西日本新聞 オピニオン面

 オランダ・アムステルダムで7年前、当時55歳のサスキアさんに夫のみとり体験を取材した。末期がんの夫は自宅で彼女の腕に抱かれ息絶えたという。その傍らには家庭医が。夫が選んだのは薬物を注射されての安楽死だった

▼「個」を重視するオランダでは安楽死が制度化されている。端緒は1971年のポストマ事件。ポストマ医師が病に苦しむ母を見かねてモルヒネを注射。殺人罪に問われた彼女の救済運動は高まり安楽死法施行の下地を成した

▼それには六つの厳しい条件がある。(1)病の状況が耐え難く絶望的(2)他の解決法が全くない(3)家庭医に加え第三者の独立した医師が診察する-など

▼日本で安楽死は認められていないが、オランダの条件に照らしてもこれは到底、安楽死でない。京都の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性に頼まれ薬物を投与し殺害したとして、医師2人が逮捕された

▼女性の父は「本人が選んだこと」と己に言い聞かせつつ「逝く方も残された方もつらい」と漏らす。父の嘆きも女性の苦悩もいかばかりか。サスキアさんの夫の安楽死を助けた家庭医も苦悩した。「ずっと診てきたあなたを死なせるのはつらいが、苦しむあなたを見捨てられない」と言い注射器を握ったそうだ

▼筆者の耳に残るサスキアさんの言葉。「死にたくて死ぬ人などいません」。人の最期の選択はどうあるべきか。とてつもない命の重みに立ちすくむ。

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