「南男北女」の結婚式 神屋由紀子

西日本新聞 オピニオン面 神屋 由紀子

 韓国語に「南男北女(ナムナムプンニョ)」という言葉がある。南の地方の男はかっこよく、北の地方の女は美人で気立てもいいとの意味で、北朝鮮でも使われる。

 先日、知人の娘さんがソウルで結婚式を挙げた。母子で故郷の北朝鮮を脱出し、韓国で暮らす。結婚相手は一般の韓国人で大学時代の先輩。白いウエディングドレスと黒のタキシードの新郎新婦は「お似合いの南男北女ですね」と祝福を受けたそうだ。

 その親子と私が初めて会ったのは9年前。北朝鮮の田舎町にはない地下鉄にもようやく乗り慣れた頃だった。

 2人は真冬に北朝鮮を出発。監視の厳しい中朝国境で凍(い)てついた鴨緑江を必死に駆け抜けて中国へ渡り、南下してタイにたどり着いた。

 バンコクではバイクに乗せられて韓国大使館を目指していたが、途中、目にしたのは北朝鮮大使館にはためく国旗。悪夢のような光景に心臓が飛び出そうになった…。

 母親は北なまりの強い言葉でそんな話をしてくれた。

 脱北したのは娘の将来を考えてのことだ。「一生懸命、働いても一向に楽にならない体制なんて」。長引く生活苦に不満を募らせていた。ひそかに見た韓国ドラマでは若者たちが青春を謳歌(おうか)している。「娘にいい環境で教育を受けさせ、夢を持たせたかった」

 私と知り合ったころ2人は離れて暮らしていた。「全く異なる社会システムに適応しなければ」と母親は仕事に専念するため、あえて娘を教会関係者に預けていたのだ。

 脱北者は、外国人の私ですら言葉のなまりを聞いただけで分かることがある。韓国に来て差別を受け、生活に追われる人は少なくない。

 彼女も苦労を重ね、まな娘の晴れ姿に感慨もひとしおだったはずだ。結婚式を終えた彼女に電話し、そういたわると「いまさら昔の苦労話なんて思い出さないわよ」と笑い飛ばし、「あの子が親にも甘えずしっかりしていたから」としんみりつぶやいた。

 今、一番有名な北朝鮮の女性といえば金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹与正(ヨジョン)氏だ。最近、脱北者のことを「人間のクズ、裏切り者」とののしった。その北朝鮮との関係を重視する文在寅(ムンジェイン)政権下で脱北者は一段と生きづらいに違いない。それでも彼女はこう笑う。

 「本当の北女はただ外見がきれいなだけじゃない。生活力があって評価されるのよ」

 朝鮮戦争休戦から27日で67年。南北の分断は続く。政治の荒波にもめげず、故郷と自由に往来できる日を待ちながらたくましく生きていくのだろう。不屈の北女に日本から祝杯を挙げた。 (論説委員)

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