あの映画その後

電力会社解体と自然エネ推進、分散型社会への道 金子勝さんに聞く

西日本新聞 吉田 昭一郎

あの映画その後 震災原発事故10年目へ~「日本と再生 光と風のギガワット作戦」(3)      連載「あの映画 その後」第4部で取り上げたドキュメンタリー映画「日本と再生-光と風のギガワット作戦」(2017年、河合弘之監督)。立教大特任教授の金子勝さんは映画の中で、再生可能エネルギーを軸とした地域分散型の社会・経済システムづくりを訴えた。今、新型コロナウイルス感染拡大の渦中にあって、国内外の識者が落ち込んだ経済の復興に向けた切り札として再生エネの活用を呼び掛ける。先駆け論者の金子さんにコロナ後のビジョンを聞いた。

日本再生論「分散革命ニューディール」の提案

 「今、日本でも多くの人たちが再生可能エネルギーに言及するのは、経済衰退傾向があるところに新型コロナが来た今の状況を考えると、それしか日本の活路はない、ということ。かつてなく思い切った政策が必要になっています」

 10年以上前から再生エネによる地域分散型社会づくりを説いてきた金子さんはそう言い切り、日本再生論「分散革命ニューディール」を語り始めた。

 「再生可能エネルギーとICT(情報通信技術)、AI(人工知能)などデジタル分野を戦略産業として集中的に投資し内需を喚起しつつ、日本を大都市一極集中から地域分散型の社会・経済構造につくり変える。大手電力会社の解体にも踏み込みます」

 ニューディールとは世界恐慌の時、米国のルーズベルト大統領が推進した大がかりな復興政策。同じように、多額の公費投入が語られるコロナ危機にあって、人類の命と健康を第一に考えて復興するには革命的な構想が必要だという。現在の経済政策、経済体制への問題提起でもあるだろう。

 なぜ「分散革命」か、金子さんはその理由から語った。「新型コロナですよ。東京を中心に感染が収まらない。徹底的に検査して対策を講じない限り、感染者が潜伏して、感染が続く。ワクチンもいつ開発されるか分からない。第2波、第3波も来るでしょう。ウイルス変異もありうるし、コロナ後にまた新しいウイルスが襲ってくるかもしれない。そう考えると、過密都市・東京は感染リスクが高すぎて、安心して住める場所ではない。となれば、人々の地方への移住を本気で進めないといけない、という状況にあるからです」

競争力落ち、輸出主導の再生困難に

 なぜ戦略産業への集中投資による内需拡大か。

 金子さんは、かつては「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とたたえられた日本経済が国際競争力を急速に失い、石油ショック以降、国が経済危機のたびに繰り返してきた「円安誘導、賃下げ(人件費削減)、輸出主導」の一辺倒では復興が見通せない、という現実を指摘する。

 「安倍政権が『成長戦略』として旗を振った原発輸出は軒並み失敗して、日本の高度成長を引っ張ってきた重電機メーカーはぼろぼろでしょう。医療機器やセンサー、半導体分野を売却する。国産ジェット機開発がうまくいかない。豪華客船も建造に失敗する。海外の石炭火力建設をめぐって巨額の負債を抱える。一方で、世界でその成長がめざましいICT、AI、あらゆる機器をネットで結ぶIoT(モノのインターネット)などデジタル分野で立ち遅れて、GAFA(グーグルアップルフェイスブックアマゾン・コム)やファーウェイ(華為技術)など米中企業の後塵(こうじん)を拝している」

 「世界では化石燃料から再生エネへのエネルギー転換が今まさに起きていて、世界経済を動かしている。1990年代、太陽光の技術は日本のメーカーが世界をリードしたのに今は影も形もなく、中国勢が上位を席巻する。日本は福島第1原発事故の後も原発を推進し、石炭火力に頼って、エネルギー転換から完全に取り残されてしまった」

 そんなこんなで日本の産業競争力が衰退しているところに、新型コロナが重なって、貿易赤字が毎月続いている。

 「もう内需主導でやっていかざるをえない。しかし、むやみな財政出動による内需喚起策は、もう返済できない巨額の財政赤字を降り積もらせて、後の世代につけ回しするだけに終わります」

 ではどうするか。経済再生・復興への隘路(あいろ)を探って、半ば必然的にたどり着くのが再生可能エネルギーとデジタル化、というわけだ。ともに世界の成長分野とされ、国外では研究開発投資が集中している。

熊本県南阿蘇村で再生エネ会社「里山エナジー」の大津愛梨さんの話を聞く河合弘之監督(中央)と飯田哲也さん(右)ⓒKプロジェクト

 

人間の基礎的ニーズを満たすネットワーク

 金子さんの「分散革命ニューディール」が描き出す地域像はこうだ。

 突破口であり、柱となるのが電力システム改革だ。大手電力会社が大規模施設で集中的に発電し広い地域に給電する仕組みを改めて、地域分散型システムに変える。地域ごとに市民や地元の中小企業、各種団体、自治体などの出資を引き出し、太陽光や風力、地熱などを活用し再生可能エネルギー事業を起こす。地域でエネルギーを自給し、余ったら大都市に売る。

 もう一つの武器がデジタル化だ。ICTやAIを活用し、地域内の給電先の需給調整をし、他地域との間でもネットワークを結んで電気を融通し合う。そのデジタル網は、地域医療や福祉、保育の面でも、地域とそこに住む人たちが求める需要に的確、効率的に応じてサービスを展開する基盤にもなる。

 地域農業は、もう大規模専業化はやめて、中小・零細規模の形で安心安全な有機・無農薬栽培などの農産物をつくる。営農の支えにするのが、デジタル網を基盤に生産から加工、流通まで営む「6次産業化」と、再生エネ発電による「エネルギー兼業」だ。

 食料、エネルギーを自給できればウイルス禍などで世界経済の動きが止まっても生き抜いていける。

 そして、自治体への国の権限と財源の移譲で新たな行政の枠組みに仕上げ、「命と健康を守る人間の基礎的なニーズを地域で満たす、地域のことは地域住民が民主的に決める分散型の社会・経済システム」をつくっていこう、というのが金子さんの提案だ。

 化石燃料から再生エネへの転換を、地域で実践する試みでもある。「エネルギー転換は経済効果が大きいんですよ。建物からインフラ、耐久消費財など、あらゆるものをつくり替えるきっかけになり、内需がどんどん膨らんで、新たな産業や雇用を生み出していく」

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