「一日中、寝てばっかり」。福岡市内の老人ホームで暮らす80代後半の女性…

西日本新聞 オピニオン面

 「一日中、寝てばっかり」。福岡市内の老人ホームで暮らす80代後半の女性。それが近頃の口癖だ。転倒でけがをし、車椅子を使っている。楽しみは毎日のレクリエーション。カラオケや風船バレー、生け花…。もちろん家族が来る日も心待ちに

▼5カ月前からレクリエーションや面会ができなくなった。新型コロナのせいだ。高齢者が重症化しやすいウイルスは絶対に持ち込まない-。感染防止に細心の注意を払う施設側の努力には頭が下がる

▼命を守ることを他の何より優先するのは当然だ。ただ、お年寄りが生きる楽しみや張り合いもなく、日々をぼんやりと過ごしている、と思えばやるせない

▼特別養護老人ホームの入所者がおやつのドーナツを食べた後に亡くなった事故を巡る裁判。おやつを配膳した准看護師は一審有罪、先日の二審判決で逆転無罪となった

▼介護現場では食事や移動、運動、入浴などあらゆる場面で事故は起こりうる。不慮の事故で個人が厳しく刑事責任を問われるのなら、介護側は安全だけを考えるようになろう。食事は喉に詰まらない流動食、転ばないよう寝かせたままに。リスクを避け、食べたり動いたりする喜びは二の次となりかねない

▼生きるということはそれだけではなかろう。食事やおやつは「健康や身体活動を維持するためだけではなく、精神的な満足感や安らぎを得るために重要だ」とした二審の判決にうなずく。

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