分散型社会選ぶ意思を 日本総研シニアスペシャリスト 井上岳一氏

西日本新聞 総合面 飯田 崇雄

 -新型コロナウイルス感染拡大の前から東京一極集中に警鐘を鳴らし、分散型社会を提唱してきた。

 「感染の拡大で、企業は東京に集積していると経済活動が滞るリスクを感じたはずだ。分散型社会の実現には、企業の本社機能の地方移転が必要だ。東証1部上場企業の6~7割は首都圏にあり、高学歴の女性は東京でなければ仕事がないと感じている。営業所は東京に置き、本社機能や研究開発機能は地方に分散させた方が家賃も安いし、固定資産税なども節約できる。今こそ変えるチャンスだ」

 「多様な働き方にも目を向けたい。会社に雇われるか起業するかだけでなく、いろいろな働き方がある。私の妻は外資系の金融会社で働いていたが、子育てを機に鍼灸(しんきゅう)師の資格を取り、移住した神奈川県二宮町で開業した。東京都心から約70キロ離れた人口3万人の小さな町だが、十分に稼げている。デザイナーや写真家、編集者など手に職がある若者は地方に活動の場を見つけ、ユニークな働き方をする人が増えている」

 -地方への分散が進めば東京の発展が鈍るのでは。

 「東京都が発表している都民総生産(国内総生産の東京都版)をみると、2006年度からデータが公表されている17年度までの12年間の伸び率は名目で1・5%。その間、日本全体は3・5%伸びている。分析が必要だが、人と企業を集積させても新しいビジネスや技術革新が生まれるわけではないということだろう。人はいっぱいいるし、手近な企業にサービスを提供すればビジネスになるため、生産性向上の工夫や努力が進まなかったのではないか。これからは人や企業が地方に分散していても、生産性が上がる仕組みを作る必要がある」

 -地方を見直す動きは広がるか。

 「リモートワークが基本になれば地方で仕事ができるので、見直す人は増えるだろう。ただ企業がどこまで変わるかは未知数。分散型社会につながる政策を選択する意思が必要だ。意識的に進めないと元に戻るかもしれず、今が分水嶺(れい)だ」

 「国と地方自治体の関係は変えないといけない。今ある地方の特産品や地場産業のほとんどが江戸時代にできたのはなぜかというと、藩が自主財源確保のために必死に工夫したからだ。今の自治体は国からの交付税に頼るが、知恵を絞れるように自立性を高めないといけない」

 -近著では自然の恵みが豊かで互助の伝統がある地域を「山水郷(さんすいごう)」と呼び、現代的意義を訴えている。

 「コロナの影響で仕事場に近いかどうかではなく、生活環境を第一に考えて住む場所を選ぶ傾向が強くなると思う。心が落ち着く自然があり、多様で豊かな人間関係がある山水郷の価値が見直されるのではないか」

 (聞き手は飯田崇雄、写真は伊東昌一郎)

 ◆井上岳一(いのうえ・たけかず) 1969年生まれ。東京大農学部卒、エール大大学院修了。林野庁などを経て2003年から日本総合研究所。現在は創発戦略センターシニアスペシャリスト。近著に「日本列島回復論」。福島県南相馬市復興アドバイザー。内閣府規制改革会議専門委員。

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