「日本の皆様の不安や焦り、悲しみなどを思い…

西日本新聞 オピニオン面

 「日本の皆様の不安や焦り、悲しみなどを思い、私は刃物で切り裂かれるような心の痛みを感じている」。2011年、東日本を襲った大地震、津波の様子をテレビで見て、本紙にメールを送ってくれた。おととい亡くなった台湾の李登輝元総統だ

▼「自然の猛威を前に決して運命だとあきらめず、元気と自信、勇気を奮い起こしてほしい」。励ましの言葉には、日本と日本人への親愛の情があふれていた

▼日本統治下の台湾に生まれ、京都帝大(現京大)で学んだ。学徒出陣も経験した。公人でありながら「私は22歳まで日本人だった」と言ってはばからなかった。古事記や源氏物語などの古典を愛読し、流ちょうな日本語を操った

▼その胸には常に「台湾人に生まれた悲哀」があった。台湾にはオランダや清朝、日本など外来の勢力に支配された歴史がある。日本の敗戦後は、共産党との内戦に敗れて中国大陸から逃れてきた国民党が独裁体制を敷いた

▼元々住んでいた本省人は人口の約8割以上を占める。だが、弾圧を受け、政治権力からもはじき出された。この政治体制を打ち破ったのが本省人の李氏だ。総統を住民が直接投票で選べるようにするなど民主化を進め、強いリーダーシップで中国の圧力にも屈しなかった

▼困難に直面したときは、新渡戸稲造の「武士道」を参考にした、とも。日本にとっても、アジア全体にとっても、大きな存在を失った。

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