PIXARの「先憂後楽」 大串誠寿

西日本新聞 オピニオン面

 インターネットで予約し、受信したQRコードをかざして入場した。福岡市博物館で開催中の「PIXARのひみつ展」。新型コロナウイルス対策で会場の過密を避ける仕組みだ。「先に苦労すれば後は楽になる」。「先憂後楽」から転じた心得の通り、事前の手続きは面倒だったが、人数制限で混雑知らず。体験型の展示を存分に楽しめた。

 PIXARは1995年、世界で初めてCG長編アニメ映画を発表した米国企業。アカデミー長編アニメ映画賞を受賞した歴代19作のうち10作を同社の作品が占める。良作を生み続ける「ひみつ」を明かす同展は、芸術と理数科学の融合を繰り返し説く。

 草の葉のしなりはy=〓(〓はxの2乗)の2次関数曲線で表現され、キャラクターの巻き毛はばねの減衰振動の法則によって表現されている。これらのプログラムの開発には多大な労力を要するが、ひとたび作り上げてしまえば後が楽だ。コンピューターは自動的に広大な草原を作り、少女の豊かな巻き毛を描き出してくれる。

 PIXARはモンスターの獣毛、スポーツカーの光沢など、新作を作るたびにプログラムを開発してきた。創作の歴史は技術革新の苦労の歴史でもあった。しかし、蓄積した知的資産は多大なライセンス料をもたらし、後続の作品に生かされた。コンピューター処理の高速化に合わせて表現も緻密化してゆく。アカデミー賞作品「ファインディング・ニモ」の海底場面はリアルになり過ぎたため、手加減が必要なほどだったという。

 PIXAR作品の舞台裏を紹介する展覧会は2005年に米国で始まり、翌年にはロンドンの科学博物館で開かれた。あるドイツの少女は国境を越えて見に行き、長じて美術と解剖学を学んだ後、PIXARのエンジニアとなって活躍する。展覧会は子どもたちの憧れを刺激し、優秀なスタッフの卵を育んでいる。

 現在福岡で開催中の展覧会は、15年に米国ボストン科学博物館とPIXARが新たに作った企画。米国とカナダを巡回した後、昨年東京に上陸した。累計230万人超を集客しているという。将来、多くの逸材が育つことだろう。

 PIXAR流「先憂後楽」の奥深さに感服した。

 (写真デザイン部部長同等)

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