ポンプ停止まで32センチ…ぎりぎり回避も悩ましい「内水氾濫」対策

検証 2020筑後豪雨(1)

 「ポンプの運転調整に関する情報」-。前日から激しい雨が断続的に続く7月7日午前10時すぎ、国土交通省筑後川河川事務所から1枚のファクスが届いた。実際に目にするのは初めての“事前通告”に、久留米市の防災対策課は一気に慌ただしくなり緊迫した。

 「運転調整」とは、筑後川本流と支流の合流箇所にある排水ポンプを止めることを意味する。当時市内では、支流や排水路の水がはけきれずにあふれる「内水氾濫」が発生。浸水被害を抑えようと、本流へと排水するポンプをフル稼働させる真っ最中だった。だがファクスは、このまま排水を続ければ筑後川本流の方が氾濫危険水位を超えかねないため、止めざるを得ないという内容だった。

 停止対象の16施設は商業施設が浸水した合川地区の下弓削川、農業被害が毎年大きな北野町の陣屋川、大刀洗川のポンプも含まれる。「止まれば水は行き場を失う。計り知れない被害になる恐れもあった」。古賀久喜課長は振り返る。

 筑後川の瀬ノ下水位観測所では7日午後0時40分、ポンプ停止水位(7・3メートル)まで残り32センチに迫ったが、その後は低下。停止はぎりぎりで回避された。

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 3年連続で内水氾濫が起き、今年は1955棟(速報値)が浸水した久留米市。その被害には筑後川本流と、合流する何本もの支流の水位が大きく関係する。

 幅が広く流路も長い本流は通常、支流よりも水位が低い。だが上流の山間部などで豪雨になると本流の流量が増え、支流や低平地の地盤より水位が高くなる。すると支流に逆流したり、堤防が決壊したりするリスクが増える。このため、合流地点の水門を閉鎖するが、行き場を失った支流の水はあふれてしまう。

 その被害を軽減するために各所で整備が進むのが排水ポンプ。筑後川水系で43施設あり計505トン(毎秒)もの排水能力がある。だが7日午前、筑後川は上流の大分県日田市で氾濫。久留米市でも本流の水位が上がりすぎて、排水先を失う一歩手前となったのだ。

 この事態は、内水氾濫が起きるたびに巻き起こるポンプの追加整備や能力増強論にも一石を投じる。ある行政関係者は「ポンプの能力をいくら上げても本流の水位が上がれば回せなくなる。ポンプだけで水害は防げない」と強調した。

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 河川事務所は「筑後川決壊などの『外水氾濫』になれば被害は甚大。それだけは避けなければならず、水門閉鎖もポンプ停止も悩ましいが必要な判断だ」と理解を求める。ただ、本流の決壊を防ぐためとはいえ、支流の周辺地域の危険度が増す事態について、住民の理解が進んでいるとは言いがたく、「必要性を理解してもらう周知も必要だった」と認める。

 しかも今回、ポンプが停止寸前だった危機は住民に伝わらなかった。「ツール(手段)がなかった」(河川事務所)との説明は準備不足を裏付ける。

 実際に佐賀県の六角川水系では2009年以降、運転調整を4回実施。広範囲が浸水した昨夏はポンプが最大5時間停止した。影響を受ける市町は住民への意義の周知に積極的だ。小城市は市広報で役割を定期的に紹介し、停止の際は防災無線で避難を呼びかける。

 国が打ち出す新たな水防施策「流域治水」は、水を溜める遊水地を農地などに設け、浸水しやすい場所の開発規制や住宅移転に踏み込んだ。あふれることを前提とした対策と住民への周知。治水は新たな段階を迎えている。 (山口新太郎)

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 大牟田市で2人が亡くなり、久留米市などでも大規模な冠水や家屋浸水の被害が相次いだ記録的豪雨から6日で1カ月になる。多大な被害の裏側で何があったのかを検証する。

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