亡き祖父の声に耳を澄ませる【坊さんのナムい話・16】

西日本新聞 くらし面

 亡き祖父は先の大戦で出征していて、酔うと戦争の話を何度もしていました。幼い時は内心「前にも聞いたなぁ」と思いながら付き合っていました。

 戦地での葬送や法事などのために僧侶として従軍していた祖父ですが、日本の情勢が悪くなると、僧侶も銃を持たされて前線に立ったそうです。確か中国の内陸部へ進軍していたと言っていました。その時に出会った同じ部隊の同僚ととても気が合ったようで、「互いに何かあったときは、必ず片方が生き残って遺品を家族に手渡す」と約束していたそうです。

 ある日、夜間作戦の命令が下ります。祖父の経験した戦場は映画のようなものではありませんでした。支給された弾は1発だけ。あとは銃の先についた銃剣だけで突撃させられます。真っ暗な中をはいずり回って進むのです。

 敵に見つかり銃撃の音を聞いた時には、隣にあの同僚が倒れていました。慌てて抱きかかえると、暗闇の中で脈拍に合わせて血が噴き出しているのが分かる。言葉を交わすことなく彼は亡くなります。祖父がとっさに取った行動は、彼の手首を持ち帰ることでした。敵の銃撃におびえながら、銃剣で手首を切り落とし、懐に入れて再び敵の方に走りだします。

 その後、祖父も右脇腹に銃弾を受け戦列を離れます。負傷兵として同僚の手首とともに帰国した祖父は、遺族へ手首を渡すことができたそうです。

 この話はどこまで本当なのでしょうか。話をしてくれる時はいつも酔っていましたし、私が他の話を混ぜ込んで記憶しているだけなのかもしれません。ただ、そんな祖父が戦争の話をする時に必ず言っていたのは「戦争するくらいなら、他国に支配された方がいい」ということです。

 内容が妥当か私には分かりません。でも戦争を経験した人間の言葉であることは事実です。正しいかどうかではなく、戦場を知る人間の訴えとして私は深く受け止めています。

 お盆の季節です。仏事は先に逝かれた方々の声に、耳を傾ける機会でもあります。今年も祖父の声に耳を澄まそうと思います。

 (永明寺住職・松崎智海 北九州市)

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