やむなく退職も…不妊治療と仕事、どう両立 「タイムリミットある」

西日本新聞 医療面 山下 真

 晩婚化などを背景に、働きながら不妊治療を受ける女性をどう支えるかが課題となっている。不妊治療は、通院予定の立てにくさや投薬・注射による体の負担から、仕事との両立の難しさが指摘されている。治療に専念するため仕事を辞める人もおり、こうした「不妊退職」が全国2万4千人近くに上るという試算もある。企業には新たな支援制度を導入する動きも広がっている。

 「仕事を辞めるか、治療をやめるか。何度も悩みました」。訪問介護の仕事をしながら約10年間、不妊治療を続けた福岡県那珂川市の枝村京子さん(49)が打ち明ける。

 枝村さんは28歳のころ、子宮内膜が妊娠に適した状態となりにくい「黄体機能不全」と診断され、その後に流産を繰り返しやすくなる「抗リン脂質抗体症候群」の診断も受けた。以来、仕事の傍ら月5回ほどクリニックに通い、ホルモン注射や投薬治療を続けた。

 仕事はシフト制で、勤務日と通院日を調整することができた。上司には不妊治療のことを伝えており、一定の理解も得ていた。それでも卵胞の発育や排卵状況によって、医師から急に「明日、来てください」と言われることがあった。終業後、閉院間際に駆け込んだり、シフトを交代できず諦めたりしたという。

 「来院できないと、それまでの1カ月の治療が無駄になる。仕事は大事。でも、不妊治療にはタイムリミットがある」

 子宮の検査のため、1週間の入院が必要なこともあり、一部の人に「ずるい」と非難されたこともあるという。負担を掛けた埋め合わせで、土日や夜間の勤務を自ら希望した。

 30代半ばで仕事がフルタイムになり、義父の看病も重なったため、不妊治療を中断することが増えた。「治療をやめる踏ん切りも付かない。心のどこかで、あきらめるきっかけを待っていました」。40歳を前に内科疾患を抱え、不妊治療を断念。それからほどなく、妊娠したという。

 枝村さんは「本当は仕事のキャリアも積みたいし、休みたくて休むわけではない。治療は金銭的にも、体力的にも、精神的にもきつい。そこまでしても、子どもが欲しいと理解してほしかった」と振り返る。

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 不妊治療と仕事を両立できず、退職を余儀なくされる人も少なくない。

 不妊に悩む人を支援するNPO法人「ファイン」(東京)が、不妊当事者に2015年と17年、2回実施した調査(合計で延べ約7800人が回答)では、治療と仕事の両立を「困難」と答えた人は9割以上に上った。5人に1人は両立できずに退職したという。

 野曽原誉枝(やすえ)理事は「退職者の多くは自己都合を理由にし、本当は治療のためという事情を明かさない。企業側には不妊退職の実態が見えにくい」と指摘する。退職しない女性でも、治療を優先させると重要な会議や出張予定を入れにくく、仕事を辞めれば高額な不妊治療費の捻出が難しくなるという板挟みで悩むことが多いという。

 ファインが調査から計算した推計では、不妊治療による退職者は全国2万3951人。それに伴い、退職者の平均賃金やそれまでの育成費用、新たな人材の採用にかかる経費を加え、経済損失は約2083億円に上るとみている。

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 携帯電話販売大手「ティーガイア」(東京)では、不妊治療と両立できずに退職する20~30代の女性社員が相次いだことを受け、社内の社会保険労務士や人事担当者が対応を検討。18年12月に「出生支援休暇」と「出生支援休職」の二つの新制度をスタートさせた。

 「休暇」は不妊治療に取り組む社員が年5日間を上限に、事前申請なしで有給休暇を取れるようにした。「休職」は体外受精などの高度生殖医療を受ける社員に、最長1年間(分割取得可)の休職を認めた。

 制度設計の際、利用しやすさに配慮して「不妊」というストレートな呼称は避けた。男女問わず利用できるように、相談員も男女1人ずつ配置したという。導入後に23人が利用しており、担当者は「気持ち的に不妊治療を受けやすくなったという声が寄せられた。退職の抑制につながった」。

 同様に不妊治療を続ける社員を応援しようと、ファインには、新制度を模索する企業の問い合わせが増えている。野曽原理事は「出産・育児の休暇制度はあっても、不妊治療の支援制度は少ない。ゼロから設計しなくても、既存の休暇制度を改良すれば対応できるケースもある。企業の不要な損失を防ぐためにも支援を考えてほしい」と語った。

 (山下真)

【ワードBOX】不妊治療と仕事の現状

 厚生労働省の調査によると、2017年の全出生児約94万6千人のうち、不妊治療で誕生したのは6%に当たる約5万7千人。また、17年の別の調査では、不妊治療をしたことがある(予定している)労働者のうち、「仕事と両立できなかった(両立できない)」と回答した人は34・7%だった。理由は「精神面の負担が大きい」「通院回数が多い」「体調、体力面の負担が大きい」の三つが上位を占めた。

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