高齢者の避難、再び課題に 熊本豪雨、犠牲者の7割は70歳以上

西日本新聞 河野 賢治

 九州を襲った豪雨で多くの高齢者が亡くなり、災害弱者を守る難しさが再び浮かび上がった。被害が集中した熊本県では、死者65人の約7割が70歳以上。その中で、市町村の「避難行動要支援者名簿」に名前がなく、これを基に作る一人一人の個別避難計画もない例が目立った。どこまでを名簿に含め、どうやって避難支援の実効性を高めるのか。自治体は改めて課題を突きつけられている。

 浸水した特別養護老人ホーム「千寿園」の14人を含め、市町村別で最も多い25人が亡くなった同県球磨村。25人のうち、70歳以上は22人に上った。

 村は、在宅生活を送る高齢者や障害者約140人を避難行動要支援者名簿に載せている。25人はこれに入っておらず、一人一人の個別避難計画もなかった。

 名簿掲載は本人の同意を前提にしているといい、村の担当者は「『私は大丈夫』と言われると、勝手には載せられない。名簿にかかわらず避難の声掛けはしているが…」と悩みを語る。

 同県山鹿市は、亡くなった2人を名簿に入れていたが、個別避難計画はなかった。計画は、本人の体の状態といった個人情報を地域で共有して作る。市は「本人の同意を得られず作れなかった」。同県八代市では名簿に名があり、個別避難計画もあった2人が亡くなり、安全に避難に導く難しさが浮かび上がった。

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 避難行動要支援者名簿は、東日本大震災を受けて2013年に改正された災害対策基本法で、市町村に作成が義務付けられた。国は、名簿に載った人と行政が話し、本人の個別避難計画も作っておくよう勧める。

 ただ、現在のルールは名簿を作ることと、これに氏名や住所、避難支援を必要とする理由を記すこと-が中心。名簿は昨年6月の国の集計で、市町村の98・9%が作成済みだが、掲載に本人の同意を得るかどうかは現場に委ねられている。

 18年の西日本豪雨では、岡山県倉敷市真備町の死者51人のうち42人が名簿に載っていたものの、消防団といった支援者側に配ることに同意していたのは34人にとどまった。個人情報を知られることへの抵抗も避難支援を難しくしている。

 さらに、集計では個別避難計画の課題も明らかに。援助の必要な人を誰が、どうやって安全に導くかを記すが、策定済みの市町村は12%にとどまった。民生委員が多くの人を助ける想定にする現実味のない計画もあるという。

 同志社大の立木(たつき)茂雄教授(福祉防災学)は現状を「自治体が計画作りを地域に一任してきたため」と見る。12%は60~70代の住民の協力で作れたとし、この世代が高齢化すると、さらに進まなくなるという。

 立木教授は「一番の問題は、高齢者や障害者と日常的に接する福祉の専門職と、防災分野が分断されている点」と指摘。高齢者のケアプランを作るケアマネジャーと、障害者のサービス利用計画をまとめる相談支援専門員が、計画作りに関わるよう求める。そのモデルが大分県別府市にある。

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 同市では16年度、福祉の専門職が、利用者の個別避難計画を作る事業が始まった。計画をまとめた専門職側には、要支援者1人当たり7千円を支給。「別府モデル」として視察が相次ぐ。

 仕組みはこうだ。まず支援の必要な人と専門職が、災害時にどんな助けが必要かを話し合う。その上で、両者が地域の自治会や自主防災組織の会合に出席し、求める援助を告げ、地域側は何ができるかを協議。助けられる側と、助ける側の橋渡しを市が担う。

 この橋渡しを担うのが、市防災危機管理課の村野淳子・防災推進専門員。これまで56人分の計画がまとまったといい、「計画を基に訓練を繰り返し、課題を検証することが大事。支援を受ける人も、日頃から地域住民と関係をつくっておくといい」と呼び掛ける。

 別府モデルを基に、兵庫県は18年度から同じ取り組みを始め、20年度から全市町に広げた。福祉サービスと防災の取り組みをつなげる形を、地方から全国に広げる動きが出ている。

 立木教授は「高齢者や障害者の避難支援を地域の善意に頼るのは限界がある。福祉の専門職が個別避難計画作りに関わるとともに、別府市のように要支援者と地域住民を橋渡しする専従のコーディネーターを置くことが大事。そこにコストをかけないと命は救えず、国はこの仕組みを制度化すべきだ」と提言する。 (編集委員・河野賢治)

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