患者の心と体に寄り添い続ける 熊本・八代で豪雨被災の医師夫妻

西日本新聞 社会面 梅沢 平 長松院 ゆりか

 土砂とがれきの茶色が広がる被災地で、真夏の太陽を浴びた球磨川は清流の青さを取り戻していた。熊本県南部が記録的豪雨に見舞われ、多くの命と暮らしをのみ込んだ災害から4日で1カ月。追悼のサイレンが鳴り響き、住民たちは手を合わせた。医院が被災しても、往診に汗を流す医師夫婦は患者の心と体に寄り添い続ける。コンビニは再開、仮設住宅での新たな生活も見えてきた。前進の先に、思い描く。川ととも生きる古里の再生を。

 熊本県南部を襲った豪雨から1カ月、被災住民のために奔走する医師の夫妻がいる。八代市坂本町の峯苫(みねとま)医院の院長、峯苫貴明さん(55)と副院長、ゆき子さん(53)。球磨川沿いにあり、地域住民約800人のかかりつけ医として頼りにされてきた医院は被災し、再開のめどは立っていない。それでも「必ず坂本に戻る。それが復興への後押しになる」。そう誓い、市街地にある分院での診察や各地に避難した患者の往診に汗を流している。

 「久しぶりー! 体調はどう?」。ゆき子さんは4日、市郊外の特別養護老人ホームを訪れた。坂本町から避難した80代女性の往診だ。古里を離れた不安を口にする女性に「医院も水に漬かっちゃって、私もまだ帰れんと。一緒に頑張ろうね」。聴診器を当て、触診をしながら語り掛ける言葉に女性の表情も和らいだ。

 前身の医院を引き継ぎ、貴明さんの父が開業して55年。坂本町に2カ所しかない医療機関の一つとして24時間365日、地域の声に応えてきた。高齢者やその家族にとって介護やリハビリの拠点でもあり、夫妻は住民の家族構成や交友関係、悩みなど暮らしの隅々まで知り尽くす。

 そんな医院もまた、濁流にのまれた。7月4日早朝、一部4階建ての医院は浸水。見る見る上がる水位に、夫妻と当直の看護師の計3人は2階にいた入院患者17人を担いで3階へ。振り返ると水は2階の目前まで迫っていた。救急ヘリの搬送で助かったが、1階にあった診察室や機器など「医療機能は全滅した」。

 生活の大動脈である国道は寸断され、電子カルテも失う中、夫妻は動き始めた。「薬がなくて亡くなったなんてことは耐えられない」(ゆき子さん)。被災2日後から被災地に残る住民の元へ。医院の職員も自発的に続いた。患者約800人の薬の情報を取り寄せ、ぬかるみやがれきを越えて自ら地域を回った。

 被災した医院を離れ、市街地にある分院を拠点に診療を続ける日々。「あんまり眠れん」「なんだか足腰が弱ってきていて…」。住民の言葉の端々に疲れがにじむようになってきた。新型コロナや熱中症への心配も尽きない。貴明さんは「不安を少しでも取り除けるように。開業医は最後のとりでだから」と言い切る。

 インフラの復旧で人が戻りつつある坂本町。だが、診てきた住民のうち約200人は市外に避難したままなのか、居場所がつかめていない。夫妻は診察や休日の片付けの合間を縫って、仮設診療所の早期開設に向け、市や地元医師会との調整に動く。「無医地区のままでは人が帰ってこない。一刻も早く住民の期待に応えたい」と2人は口をそろえる。白衣をまとい、きょうも古里のため走り続ける。

(梅沢平、長松院ゆりか)

熊本総局が移転しました

熊本総局 移転先地図

西日本新聞熊本総局が移転しました。新しい総局は、熊本市中央区の熊本桜町バスターミナルに近い坪井川沿いです。電話、FAX番号も変更となりました。

▼移転先
住所 〒860―0805 熊本市中央区桜町2番17号第2甲斐田ビル9階
電話 096(323)1851
FAX 096(323)1853

熊本県の天気予報

PR

熊本 アクセスランキング

PR

注目のテーマ