“稼げる農業”被害拡大 想定外に打つ手なし

西日本新聞 筑後版 片岡 寛

検証 2020筑後豪雨(3)

 辺り一面を覆っていた雨水が引いて約2週間たった7月22日、久留米市北野町鳥巣でラディッシュをハウス栽培する楢原恵介さん(51)は、視察に訪れた江藤拓農相を前に、スコップでハウス内の土を掘り返して見せた。「表面は乾いていますが、土の中はまだかなり水分を含んだ状態。無理をして先日、やっと種まきできたところです」

 楢原さんは同町の4カ所に計23棟のハウスを所有。冠水被害は3年連続で、2018年7月の西日本豪雨では2カ所が、今回は初めて4カ所すべてが漬かった。生育中のラディッシュは廃棄せざるを得ず、今回の被害額は概算で400万円に上るという。「仕方ないとはいえ、歯がゆい」と嘆く。

 市によると農地の被害面積は約2400ヘクタール。サラダ菜、キュウリ、イチゴ苗などの農作物や養鶏、ビニールハウスの被害額は7月26日時点で計16億2700万円。今後、農業用施設・機械などの被害を加えると、西日本豪雨の25億3千万円を超える可能性もある。

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 市町村別で県内1位の農業産出額(2018年は約298億円)を誇る久留米市だが、ここ数年は深刻な農業被害が続く。その背景には農業の転換がある。

 市内では従来、肥沃な筑後川流域で稲作が盛んだったが、楢原さんのように野菜を大規模に栽培する農家が増えた。水稲は水に比較的強く、土砂を深くかぶっていなければ持ち直しやすいが、野菜は泥水に一度漬かると商品価値を失い、多くは廃棄せざるを得ない。また、降った雨水をためるダムの機能があるとされる水田の減少は被害を拡大しやすくした面がある。

 転換が進んだのは国の方針もあったからだ。コメの生産調整と併せて稲作中心の農業から、収穫が年に複数回できて高い収益性が見込める野菜や花き栽培など“稼げる農業”へのシフトが奨励されてきた。

 傾向は市の農業産出額の推移に顕著だ。1989年は米麦大豆(113億5千万円)の割合が最も大きいが、96年ごろから野菜が逆転。2018年は野菜(129億3千万円)が米麦大豆(50億9千万円)の2・5倍にまで膨らんだ。

 それだけに、冠水すれば農家へのダメージだけでなく、野菜の値上がりを招きやすくなり消費者への影響も大きくなったといえる。

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 繰り返す冠水被害に、農家はどう備えればいいのか。JAくるめの原文雄・営農事業部長は「(農地に接する)道路の高さを超えるくらいの水位になると、今のところ打つ手がない」とこぼす。

 ハウスを囲むコンクリート製の擁壁や排水ポンプを設置した農家もあったが、今回は冠水の水位が想定を超え、ハウスへの浸水を防げなかったという。

 原部長によると(1)高台や土地をかさ上げした場所にハウスを新設(2)既存のハウスのかさ上げ-といった対策が考えられるが、どちらも多額の経費がかかる。冠水を見越して梅雨期や夏場の栽培を避ける方法も考えられるが、大規模化が進み、家族以外に従業員や技能実習生などを雇う農業法人などが増えた現状では、毎月の給与を払う必要性から難しいという。

 「頑張ればきちんと所得がある農業をやっているからこそ、久留米は後継者にも恵まれている。今更、稲作に逆戻りはできない」と原部長。“稼げる農業”は今、大きな壁に直面している。

(片岡寛)

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