黒い雨の夕立が来ていた。<万年筆ぐらいな太さの棒のような雨>…

西日本新聞 オピニオン面

 黒い雨の夕立が来ていた。<万年筆ぐらいな太さの棒のような雨>。一瞬の閃光(せんこう)で広島の街は焼け崩れた。叔父夫婦の身を案じて市街に向かっていた矢須子はその雨に打たれた。<真夏だというのに、ぞくぞくするほど寒かった>

▼原爆投下から5年後、黒い滴とともに矢須子の体に忍び込んだ放射性物質は、病魔となって彼女をむしばんでいた-。広島県出身の井伏鱒二の「黒い雨」。実際の「被爆日記」を基にした小説は、被爆とその後の人々の日常を淡々と描く。それだけに原爆の悲惨さがいっそう強く胸に迫る

▼小説の最後、主人公は原爆症が悪化しためいの回復を願ってつぶやく。「向こうの山に虹が出たら奇蹟(きせき)が起る。矢須子の病気が治るんだ」

▼彼女のように黒い雨を浴び、がんなどの健康被害に苦しむ人々は75年たった今もなお。国は黒い雨が降ったとする「特例区域」にいた人を被爆者援護法による救済の対象とした。だが、区域外で雨を浴びたという証言もある

▼広島地裁が、特例区域外として被爆者健康手帳の交付を受けられなかった人々に救済の道を開いた。雨は特例区域よりも、もっと広い範囲に降った、と初めて認定する画期的な司法判断である

▼きょうは広島原爆の日。悲劇を繰り返さないため、核兵器廃絶を世界に訴える日である。同時に、原爆の傷がいまだに癒えない人々の希望となる虹を懸ける決意を新たにする日でもある。

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