頭とハートに訴えかける、注目の新人作家が描く新感覚法廷ミステリー

西日本新聞

数々のユニークなエンタメ小説を世に送り出してきたメフィスト賞の第62回受賞作。歴史ある法廷ミステリーのジャンルに新風を吹き込む作品が登場した。

物語は冒頭から不穏な空気に包まれている。ロースクール(法科大学院)の学生たちによる「無辜(むこ)ゲーム」なる模擬裁判が始まるのだ。無辜とは罪のない人を指す。漆黒の法服姿で裁判長席に座るのは、結城馨(かおる)という名の青年。司法試験を驚異的な成績で合格した秀才だ。

傍聴席からヤジを浴びつつ、名誉棄損の被害を告訴するのが主人公の久我清義(きよよし)。弁護士を目指し、周りからは「セイギ」と呼ばれているが、その言葉とは裏腹にどこか影を感じさせる。彼の証人に立つのは織本美鈴(みれい)。セイギとは10代半ば頃からの知り合いで、同じくダークな雰囲気をまとう。

馨、セイギ、美鈴。それぞれ法律家として前途有望でありながら、腹に一物を抱える三人。何も起こらないはずがない。次第に明らかになるセイギと美鈴の衝撃的な過去、そして「無辜ゲーム」の異様な本性。模擬法廷の机にナイフが突き刺さり、アパートのドアスコープにアイスピックが貫通する。やがて一つの殺人事件をきっかけに、物語はいくつかの謎を抱えたまま、本物の法廷を舞台とする第二部へとなだれ込む。巧みで緻密な構成が、読者に息つく暇を与えない。

緻密な構成と論理展開を持つ法廷ミステリー。しかし、決して難解で専門的なものではない。本作は、頭だけでなく、ハートにも訴えかける作品なのだ。

セイギが法律に惹かれた理由は、それが論理的だったから。現実と違い、感情や道徳といった曖昧な基準に左右されることのない整合的で一貫した世界。しかし、世の中の事象すべてが論理で割り切れるわけではないし、法律が常に正しい結論を導くとも限らない。そうでなければ冤罪(えんざい)など起こるはずもない。

冤罪とは、すなわち「無辜」の人が有罪判決を受けること。「裁判を執り行うのは不完全な人間なので、冤罪という過ちが生じます」馨はクールにこう語る。けれども、目の前で大切な人が冤罪に追い込まれそうになった時、人はそんな風に達観してはいられない。そう、第二部で弁護士として奔走するセイギのように。

論理の積み重ねの果てに仕掛けられた、ラストの大どんでん返し。その衝撃の後にこみ上げてきたのは、切なさと割り切れなさがないまぜになった感情だった。

 

出版社:講談社
書名:法廷遊戯
著者名:五十嵐 律人
定価(税込):1,760円
税別価格:1,600円
リンク先:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000328549

西日本新聞 読書案内編集部

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