オバマ元大統領も絶賛!格差社会の現実を描いた極貧シングルマザーの回顧録

西日本新聞

 「メイド」という単語から、あなたは何をイメージするだろうか。英国貴族に仕えるしとやかな使用人?それとも秋葉原のカフェにいるような可愛らしい女の子?

 本書に登場する「メイド」は、そのどちらでもない。人様のお宅を訪問し、清掃やハウスキーピングを行う家庭内労働者を指す。アメリカでは、「トイレ掃除は女に押し付けられてきた汚い仕事」という認識があるそうだ。そんなトイレ掃除を含む家の清掃を担うメイドの仕事は、低賃金であるにもかかわらず過酷極まる。バスルームで散らばった陰毛を拾い集めたり、幽霊のように無視されながら掃除機をかけたり。

 著者は、そんな(言葉を選ばずに言えば)“底辺”の仕事を選ばざるを得なかった。元恋人のDVから逃れてホームレスのシングルマザーとなり、政府の援助プログラムを受けながら貧困生活を送ることになる。

 彼女を苛んだのは貧しさだけではない。社会福祉を受ける難しさや娘に背を向ける実の両親、著者をおとしめ続ける元恋人、貧困層へ向けられる「福祉を食い物にする怠け者」という偏見や差別、その全てが著者の尊厳を傷つける。それでも、著者は娘に安全な暮らしを与えるため、よその家のバスタブの前で泣きながら、働き続けるのだ。

 本書はそんな著者がつづったブログを元に出版されたものだが、淡々とした語り口に逆に胸がえぐられる。まざまざと見せつけられる格差社会にがくぜんとするとともに、興味をひかれるのが、著者がメイドとして訪れるさまざまな家の事情だ。

 たとえば「悲しい家」。愛する妻と息子を亡くし、一人余生を送る男やもめが住人だ。著者は、おそらく冷めた関係なのであろう夫婦が住む「ポルノハウス」と比較し、「私たちは結局のところ孤独なのだ」と結論付けている。清掃を通じてのぞく各家庭は、謎と人間味に満ちたものだ。著者は、彼女の言葉を借りれば、「彼らが家にいなくても、ベッドに残る跡や、ナイトスタンドに残されたティッシュで、私には彼らが見えていた。他の誰もがやったことのない方法で、あるいは決してやらないような方法で、私は彼らを知った」。

 本書のメッセージは、「貧困は決して他人事ではない」ということだ。失職や突然の病など、ふとしたきっかけでいくらでも転落する。著者のように。日本でも生活保護受給者へのバッシングが度々激化しているが、そんなわが国でこそ、読まれるべき一冊だろう。

 

出版社:双葉社
書名:メイドの手帖
著者名:ステファニー・ランド
定価(税込):1,980円
税別価格:1,800円
リンク先:https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-31558-5.html?c=30598&o=&

西日本新聞 読書案内編集部

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