約350枚のカラー化写真で解凍される戦前・戦争の記憶

西日本新聞

 この本を読むのには、とても時間がかかった。新書版サイズなのだが、通常の倍ぐらいの厚みがある。しかし、それが理由ではない。文章はほとんどないのだから。本書は、約350枚のカラー化写真と少し詳しめのキャプション(写真の説明)でできている。それ以外の文章と言えば、まえがき、あとがきに相当する部分を2人の著者が記しているだけだ。

 それなのに、いったんページを開くと、なかなか前へ進めない。それだけ収録されている写真の1枚1枚が雄弁なのである。それほどまでに写真が語りかけてくる理由のひとつにカラー化されているという点がある。

 カラー写真ではない。カラー化写真だ。収められた戦前・戦中時代の写真は、すべてモノクロで撮影されている。それを最新のAI(人工知能)技術を使って、カラー化する。しかし、AIによる自動色付けはあくまで下色付け。なぜなら、AIは自然物のカラー化は得意だが、衣服や乗り物などの人工物は苦手だからだ。そこで、当時を知る人たちとの対話や資料をもとに、手作業で色補正していく。表紙に掲載されている「戦前の広島・本通り」のカラー化が完成するのには数ヵ月かかっているという。

 繰り返すが、それが350枚である。その効果は圧倒的だ。モノクロ写真で見る戦争は、歴史の記録として、つい他人事のようにながめてしまう。それがカラー化されることで生々しく迫ってくる。アニメ映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督は、この「記憶の解凍」プロジェクトに協力し、帯に以下の言葉を寄せている。

「すずさんの時代にたどり着きたいと思っていたら、ここにもタイムマシンを作ろうとする人たちがいました」

 まさに、これはタイムマシンである。太平洋戦線、沖縄戦、空襲、原爆投下の写真も収録されているが、個人的にショックを受けたのは、銃後の写真だ。特に、戦前。そこでは早くも1932年に幼稚園児たちが兵隊の格好をしておもちゃの銃を構えている写真がある。41年には、少年が銃剣で籾殻袋を突き刺している。今度は本当に人を殺す訓練として。戦争が破壊したのは物だけではないことがよくわかる。

 

出版社:光文社
書名:AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争
著者名:「記憶の解凍」プロジェクト 庭田杏珠 渡邉英徳
定価(税込):1,650円
税別価格:1,500円
リンク先:https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334044817

西日本新聞 読書案内編集部

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