「どの時点でどこに避難を」命守る情報、発信方法たゆまぬ改良を

検証 2020筑後豪雨(5)

 事態は極めて切迫していた。7月6日午後8時半すぎ。福岡県大牟田市三川地区の三川ポンプ場でポンプ全12台が水没した。地区にあふれかえる水を諏訪川に排水できなくなり、浸水被害が深刻化するのは明らか。だが市は、その警告を住民に発信することはなかった。

 「国や県との連絡といった殺到する業務に追われ、考えが及ばなかった」。市長が出す避難情報の事務を担う防災対策室の栗原敬幸室長は振り返る。市はその4時間前、全域に避難指示を出してはいた。しかし改めて三川地区に広報していれば避難行動をさらに促せたかもしれない。地区では2人の尊い命が失われた。「ポンプ停止の際は広報するとのマニュアルを事前に作っていれば…」

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 どうすれば、逃げ遅れを防げるか-。久留米市の模索は2017年7月の九州豪雨が契機だった。

 50年に1度とされる大雨特別警報が九州で初めて発令されたのを受け、市は約30万6千人(当時の全人口)に避難指示を出した。だが結果的に東部を除きまとまった雨は降らず、避難したのは最大375人。対象のわずか0・1%にとどまり実効性が問題となった。

 翌18年、市は東西に広い市域を3エリアに分け、それぞれに近い筑後川本流に設置された観測所の水位に応じ、避難情報を出す基準を策定。だが、この年の西日本豪雨では支流の中小河川で内水氾濫が発生。被害が集中した地域では発表前に道路冠水や浸水が始まり、避難に支障も出た。

 そこで市は19年、市域を五つのエリアに分け、12支流の水位と、内水氾濫のリスクが高まる水門の閉鎖まで加味した新たな基準をつくった。

 危機を伝える伝達手段も増やした。今夏の豪雨で市は緊急速報メール30通のほか、無料通信アプリLINE(ライン)の公式アカウントで46通を配信。避難情報と併せ、水が川の護岸に迫る現場写真も公開するなど工夫と改良を続ける。今夏の避難者数は最大1398人で過去最多に上った。

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 一方、久留米市と同様に内水氾濫の被害に見舞われた大牟田市。避難勧告や避難指示は、久留米市と比べきめ細かい内容とはいえなかった。大牟田市には河川氾濫(外水氾濫)による洪水や土砂災害を想定した判断基準しかなく、土地の高さや支流の位置などによって地域ごとに被害が起きる内水氾濫に対応していなかった。なぜか。市の基準は国の指針に基づくが、その指針に内水氾濫の具体的記述が少なかったからだ。

 さらに干満の差が大きい有明海の潮位も深く関係し、基準づくりは難しいという。それでも犠牲者が出た事態を重視し、関好孝市長は「内水氾濫を含む新たな基準が必要」と表明した。

 豪雨前の6月、洪水と高潮のハザードマップが市内全世帯に配布された。洪水マップで三川地区は3~5メートルの浸水が想定される薄いピンク色に塗られていた。これに先立ち、3月には市が地区役員にマップの説明をする予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止になった経緯もあった。

 栗原防災対策室長は語る。「ハザードマップは配るだけで終わりではない。どの時点でどこへ避難するか。一人一人に理解してもらう必要があると改めて痛感した」。命を守るための情報をどう伝えるか。築堤などのハード整備だけでなく、ソフト面での防災態勢構築も急がれる。 (吉田賢治、山口新太郎)

 =おわり

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