争点にもならず「進展望めない」市民、識者憤る米の核軍縮

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

 【ワシントン田中伸幸】広島、長崎への原爆投下から75年にちなみ、米国でも市民がインターネット上で集会を開くなどして核廃絶の声を上げている。しかし、専門家らの間で軍拡への懸念が高まる現状とは裏腹に、核問題への社会の関心は依然として低調で、11月の大統領選の争点にもなりそうにない。「誰が大統領になっても大きな進展は望めない」。反核の識者や市民からはこんな声が漏れる。

 7月末、米国の有識者たちが原爆を投下した米政府の狙いなどについて、ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使って議論している最中に、甲高い笑い声や、発言を妨げる不快な音が断続的に鳴り響いた。何者かが会議を妨害する「ズームボム(爆弾)」と呼ばれる迷惑行為。主催者は「核廃絶や軍縮に反対する者の仕業か、単なるいたずらかは分からないが、失礼極まりない」と憤った。

 1980年代以降、大規模な反核運動が発生していないという米国。今年は節目の年だったが、新型コロナウイルス禍の影響でオンラインの運動が大半で、一般市民の関心は例年と同様、高まらない。トランプ大統領は7月、史上初の核実験から75年に合わせ、声明で「素晴らしい偉業だ」と称賛したが、話題にはならなかった。

 一方、米国の核政策を巡る専門家たちの危機感は強い。ポンペオ国務長官は5日、記者会見で核軍縮について「核兵器が使用されて世界がひどい日を迎えないようにすることを、トランプ大統領は最優先事項の一つにしてきた」と強調。その上でロシアだけでなく中国を交えた軍縮枠組みの必要性を改めて訴えた。

 しかし、実行が伴わない。トランプ氏は他の外交問題と同様、核政策でも多国間協調を軽視し、イラン核合意やロシアとの中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱。来年2月に期限切れとなる米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の延長の行方も不透明だ。

 トランプ氏はロシアや中国に対し「私ほど厳しく対処する大統領はいない」と述べ、圧力をかけながら譲歩を引き出して事態の打開を図る構えを示す。ただ実際は、核軍縮を主導する長期的な戦略は見えず「有権者向けの内向きな強硬論にすぎない」(核専門家)といった批判がやまない。

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 そんなトランプ氏を、民主党の大統領候補となるバイデン前副大統領は非難する。米メディアが「トランプ政権が核実験再開を協議」と報じた5月末には「核実験をすればロシアと中国が軍縮協議に応じると考えるのは妄想だ」と痛烈に批判。6日に出した声明では「大統領として軍備管理や不拡散に向けた米国のリーダーシップを回復し、核なき世界に近づくよう取り組む」と意欲を見せた。

 「バイデン氏は、オバマ前大統領に広島訪問を強く勧めた一人」(バイデン氏の元側近)。核の先制不使用も支持しているとされ、大統領に就任すれば核軍縮が進むとの見方がある。

 「確かにバイデン氏は先制不使用を宣言するかもしれず、広島、長崎に行きたいと言うかもしれないが、大きな変化は望めない」。こう語るのは、核廃絶を訴え続けるアメリカン大の歴史学者カズニック教授(72)。核廃絶を唱えノーベル平和賞を受賞したオバマ氏について、広島訪問自体は評価する半面「広島での演説には虚偽が多く、核兵器の近代化に着手した張本人」と批判。バイデン氏はオバマ氏の流れをくむとみられるだけに、大きな期待は抱けないと懸念した。

 「希望は捨てないが、私も同意見だ」。5日、広島の原爆犠牲者を追悼するためワシントンの教会を訪れた黒人男性も声を落とした。

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