あの日、何を報じたか1945/8/11【新型爆弾にはかく戦え】【お茶も食べよう 蔬菜不足食用化】西日本新聞の紙面から

西日本新聞 福間 慎一

 8月11日の紙面。全体的な戦局を中心に伝える1面の主な記事の見出しには、苦境がまざまざとにじんでいる。

 〈ソ軍・逐次兵力を増強 樺太国境でも我に攻撃〉

 〈驀(ばく)直進前・戦うのみ 阿南陸相、全軍に布告〉

 〈事態は今や最悪 国民奮起・国体を護れ 情報局総裁談〉

 〈戦爆二百十機来襲 熊本、大分市を焼爆〉という地元九州の大きなニュースが、上記の記事よりも下に配置されていた。

 地域の話題や生活情報などで構成された2面は、広島・長崎への原爆投下を受けた「新型爆弾」への備えに広く紙面を割いている。軍や官庁発の情報や「現地からの報告」を総合したという防護指針は「Q&A」の形で以下のように解説されている。

 〈いつ投下するか〉今後は夜間も使用しないとは限らないので、昼夜の別なく防空服装を整えラジオ情報に注意を

 〈どんな敵機が持ってくるか〉高高度を飛び回るB29が使用されているとみられる

 〈敵機をよく監視せよ〉爆弾投下から40秒ほどで目をくらますような閃光がして、それから3秒ほどで熱波と相当大きな爆風が起きる。監視さえ十分なら落下傘は目に見えるのでそれから待避信号を発すれば被害は小さくとどめられる

 〈謀略・魔手に陥るな〉という見出しの記事では、〈機敏な防空壕への待避、地下壕施設の強化などが徹底しておればあえて恐るるに足らないことは既に立証されている〉と軽視。次のように戦意低下を強く戒めている。

 〈市民の一部では新型爆弾に対し「ピカリ」などと呼称し消極的な恐怖感を抱いている向きも皆無ではない。これらの弱点をこそ敵は謀略対象の好餌としてその魔手を伸ばしてくるのだ〉

 1面にはもう1本、原爆に関する大きな見出しがあった。〈残虐・例を見ず 新型爆弾の害悪・毒ガスを凌駕 帝国、米国に厳重抗議〉

 日本がスイス政府を通して米政府に提出したという抗議文が掲載されている。そこには、これまでの記事では表出しなかった、原爆による被害の大きさについて〈瞬時にして多数の市民を殺傷し、同市の大半を消滅せしめたり〉と強く訴えられていた。

 〈実際の被害状況に接するに、被害地域は広範囲にわたり、右地域内にあるものは交戦者、非交戦者の別なく、また男女老幼を問わず、すべて爆風及び輻射熱(ふくしゃねつ)により無差別に殺傷せられ、その被害範囲も一般的にして、かつ甚大なるのみならず、個々の傷害状況より見るも未だ見ざる残虐なるものというべきなり〉

 「恐るるに足らない」という記述と、どちらが正しいのか。読者はここでも混乱しただろう。

   ◆    ◆

 新型爆弾への恐怖の一方、日々の市民生活の窮状も深刻さをさらに増していた。

 〈お茶は飲むよりも食った方が栄養価が高く、最近のように蔬菜類の不足からいろいろの栄養障害も克服できるというので、農商省でも蔬菜対策の一環として取り上げるため目下関係局で研究中である〉

 「理化学研究所の武見博士」が数年前から研究しているとして紹介されたお茶っ葉の食用化。〈直火熱風処理という特殊な方法によって処理し乾燥した物を粉末にして使用すると一日およそ七グラム、コーヒースプーン三杯ぐらいで人間のビタミンC必要量が供給できる。これさえ食っておれば蔬菜類がなくても栄養障害を起こさず〉-などと説明している。

 また、そのすぐそばには〈禁止作物者にお灸〉との記事。

 〈福岡県八女郡羽犬塚町原口坂井市太郎(仮名)ほか十一戸の農家が禁止作物の西瓜、甘蔗、甜瓜を一反五畝にわたって栽培しているのを、八女地方事務所の農地作付統制実態調査員が発見して作物はその場で抜き取って大目玉を食らわせ大豆その他の主要農作物に作付け転換を命じたが、なお同所ではこの種の作付け違反が相当ある見込みなので全所員に対して管内出張の際には田畑の状況によく注意して禁止作物栽培を発見したら報告するよう指令した〉

 スイカ、サトウキビ、メロン。夏の風物詩はいずれも栽培が禁じられていた。我慢に我慢を重ね続けた国民に、敗戦の報が届くのはもうすぐだった。(福間慎一)

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 〈〉部分は当時の記事から引用。できるだけ原文のまま掲載。

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