犬は歴史上、人が初めて家畜として飼育した動物とか…

西日本新聞 オピニオン面

 犬は歴史上、人が初めて家畜として飼育した動物とか。国内でも縄文の遺跡から埋葬された犬の骨が見つかっている。初めは狩りの「相棒」、やがて家族のような存在として、犬は人と歩いてきた

▼そんな犬を主人公に据えて、馳星周さんが直木賞を射止めた。題名は「少年と犬」。候補となって7度目の馳さんにとり、犬はさしずめ幸運の女神か。物語の始まりは東日本大震災から半年後の東北。犬の「多聞」がさまざまな境遇の人の守り神となりつつ「南」を目指す

▼登場人物は犯罪や売春に手を染めたり、末期がんであったり。そんな人々に寄り添う多聞を馳さんはこう記す。<人にとって犬は特別な存在なのだ/人という愚かな種のために、神様だか仏様だかが遣わしてくれた生き物なのだ>

▼ふと、この作品を、犬嫌いとされた太宰治が読んだらどう評するか想像した。小説「畜犬談」を書いた当時、太宰が住む甲府は野良犬が多かった。「犬は猛獣。必ずかむ」と恐れる主人公は犬に出合うたび卑屈な笑みを浮かべる。その結果、犬に好かれて飼わざるを得なくなる皮肉な話

▼徹頭徹尾、犬を疫病神として描くが締めは爽やか。主人公は「ポチ」の薬殺を巡る葛藤の末、芸術家とは元々弱者の味方だったと気付く

▼コロナ禍で大手を振っての外出が難しい今、犬の散歩も楽しい。犬にせよ何にせよ誰にせよ、寄り添ってくれる「相棒」を大切にしたい。

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