鉄路が結ぶエール再び 中原岳

西日本新聞 オピニオン面 中原 岳

 甲高い汽笛が「復活」を自ら喜んでいるように思えた。

 熊本と人吉を結ぶJR九州の観光列車「SL人吉」が約2カ月ぶりに運行再開したのは6月中旬のことだった。新型コロナウイルスの影響で政府が要請していた移動自粛が全国で解除された日である。間もなく私も熊本からSL人吉に乗った。ひすい色の水面をたたえた球磨川が移りゆく車窓を眺めながら、2時間24分の汽車旅に揺られた。

 喜んでいるのはSLだけではなかった。家族連れや自転車に乗った女の子、ツーリング中の人…。駅や沿線で多くの人が列車に向かって笑顔で手を振っている。「車内からも手を振り返して、エールの交換をしていきましょう」と客室乗務員が促した。応える乗客もいて、熊本の人たちの鉄道愛に心が温まった。

 その2週間後である。熊本県南部を記録的豪雨が襲った。SL人吉が走る肥薩線、第三セクターのくま川鉄道、肥薩おれんじ鉄道が被災し、不通になった。

 現地での出張取材を終えた日、鉄道の被害状況を見て回った。肥薩線の第二球磨川橋梁(きょうりょう)は茶色く濁った川の底に横たわっていた。渡(わたり)駅は駅舎の屋根まで水没した跡が残り、坂本駅前では流された車が横転。くま川鉄道の川村駅はホームが崩れ、路盤の流失で線路が宙に浮いていた。

 現地の観光関係者からは悲観的な声も漏れる。「もともと利用客が少ない肥薩線の復旧は難しいのでは」「(バス高速輸送システムでの復旧が決まった)日田彦山線のようになるのかも」

 被災ローカル線の復旧は確かに厳しい。運行を再開しても鉄道会社は赤字だ。それでも、あえて鉄道での復旧を決めた路線がある。

 2011年の新潟・福島豪雨で橋が流されるなどしたJR只見(ただみ)線は、21年度中の全線再開を見込む。復旧費81億円のうち、JR負担分と国の補助金は約3分の2。残りの約3分の1を福島県と地元17市町村が負担する。復旧区間の鉄道施設は県が無償譲渡を受け、維持管理するという。運行はJRが続ける。

 自治体がJR任せにせず、積極的に関わっているのが特徴だ。福島県は「豪雪地帯の交通確保に加え、沿線振興で鉄道が観光資源になると考えた」と説明する。

 熊本豪雨で被災した肥薩線やくま川鉄道の運行再開は見通せないが、復旧すれば鉄道を愛する熊本の人々を勇気づけるだろう。SL人吉の汽笛が鉄道の復活を告げ、沿線の人たちとエールを交換できる日が再び来ることを願っている。 (編集センター)

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