井上光晴さんの小説「地の群れ」の中に…

西日本新聞 オピニオン面

 井上光晴さんの小説「地の群れ」の中に、こんな手まり歌が紹介されている。被爆前の長崎で歌われていたとの設定である。「四月長崎花の町。八月長崎灰の町。十月カラスが死にまする」

▼米軍は市民の厭戦(えんせん)気分をあおるため、多くのビラを上空からまいた。中にはこの歌のように8月の、長崎の壊滅を予告するものも現実にあったという。原爆投下への周到な準備をうかがわせる

▼先日の本紙1面の記事もその証左だろう。パンプキンと呼ばれた原爆の模擬爆弾を、米軍は全国に49発落としていた。目標に正しく投下するために。また自身が原爆の被害に遭わないために、機体を急旋回するなど高度な操縦技術がいる。その「練習」とみられている

▼模擬とはいえ高性能爆弾である。被害は甚大だった。山口県宇部市では7月29日だけで3発も落とされた。大勢が決していた終戦前日の8月14日にはとどめを刺すように、あるいは使い切ってしまえと言わんばかりに7発。全国で死者400人超、負傷者も1200人以上という

▼取材した記者は言う。「練習というよりも、米軍にとっては実験台だったようにも思う。そんな行為で400人もが亡くなるなんて、やりきれなさを感じた」

▼75年前のパンプキン投下は本州と四国だけだったため、九州ではほとんど事実が知られていない。今日は長崎原爆の日。歴史の陰に隠れた犠牲者の霊にも手を合わせたい。

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