日韓の「未来」問う日に 小出浩樹

西日本新聞 小出 浩樹

 「極秘」と、当時押された刻印が物々しい。日本と韓国が国交正常化(1965年)に向けて重ねた予備会談の議事録である。外務省のサイトで公開されている。

 日本による統治後、朝鮮半島に残した財産や債務をどう扱うのか。議事録はこのうち、いわゆる徴用工の補償についても両国のやりとりを記している。要約する。

 日本側<両国の融和が、われわれの目的だ。日本は被徴用者の本人や家族に直接補償したい> 韓国側<趣旨はよくわかる。しかし支払いは韓国政府の手で、国内措置として行いたい>

 貴重な1次史料だ。実際に補償金は、日本側から膨大な経済協力金を得た韓国政府が支払った。原資には日本企業による供託金も含む。

 議事録は、韓国側も盧武鉉(ノムヒョン)政権が2005年に公開した。その内容から、元徴用工が日本に賠償請求するのは困難と表明し、問題は終わった。

 ところが一昨年、韓国最高裁は元徴用工とされる原告4人に「慰謝料」を支払うよう日本企業に命じた。植民地支配そのものを違法とし、あの時代に苦痛を感じたと思う人は誰でも慰謝料請求できることにつながる内容だ。

 文在寅(ムンジェイン)政権の姿勢は目に余る。文氏は盧政権による議事録の公開と評価に、法務を担う民情首席秘書官として関わった。なのに判決を巡り、日本側が協定に基づいて求める政府間協議にさえ応じない。

 冒頭の予備会談を経て結ばれた日韓請求権協定は国際条約だ。国内法に優先する。互いの債権と債務の問題は完全かつ最終的に解決され、両国は「いかなる主張もできない」と明記されている。

 韓国では、最高裁判決に基づき日本企業の資産を現金化する動きが始まった。協定を破れば、朝鮮の独立を承認し(第2条)、請求権は当事国で協議する(第4条)-として、戦後国際社会の枠組みを決めたサンフランシスコ講和条約の根幹に関わる。ひいては、東京裁判などの正当性を問う声さえ上がるだろう。

 両国が「極秘」指定を解いた議事録に基づき、もう少し早く史実を丁寧に国民に説明していたら、ここまでこじれなかったのでは、とも思う。

 それにしても、すべてを承知の上で、事態を悪化させる文氏の真の狙いはどこにあるのだろう。対米、対北朝鮮政策でも混迷は続く。

 あす終戦の日は、韓国では祖国が解放された光復節という祝日である。はっきりしているのは次世代に託す両国の未来を、私たちの世代がふさいではならないということだ。 (特別論説委員)

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