「人の縁」つなぎ次世代へ

西日本新聞 筑豊版 丸田 みずほ

【語る、継ぐ 戦後75年の記憶】(下)

 毎年8月に福岡県嘉麻市の碓井平和祈念館で開かれるイベント「語り伝える 戦争の話」が、今年は新型コロナウイルスの影響で10月に延期となった。会場を変更し、席数も制限される見込みだ。「人数が限られるのは惜しいけれど、続けていくことが大切」。運営の中心を担う同館学芸員、青山英子さん(62)は、こう語る。

 イベントは2012年から開催。同市ゆかりの人を招き、戦争体験や戦時中の暮らしについて語ってもらっている。きっかけは、青山さんが戦地に送られた慰問文や軍事郵便といった同館の収蔵資料の目録をデータ化するため、資料整理に携わったことだった。資料から「人々の暮らしが一気に壊れていく恐怖」を感じた。この事実を後世に伝え続けなければいけないと考えるようになった。

 体験者宅を訪れるなどして地道に聞き取りを行った上で「語り伝える-」への出演を依頼。教科書には載っていない「普通の人たちの暮らし」を、本人がありのままに、自分の言葉で語ることを大切にしている。

 最初は語り部を探すだけでも苦労したが、過去に登壇した人から知人を紹介してもらうなどして、戦争体験者とつながることが多くなった。しかし、年に1回のイベントで登壇は3人ずつ。ほとんどが80歳以上だ。青山さんは「次の年には、人前で話せる状態かどうか分からない。時間と人数には限りがある」と、焦りを感じている。

 これまでは実際に戦地へ行った人を招くことが多かったが、昨年からは、当時まだ子どもだった人にも出演してもらうようになった。戦時下の暮らし、学校、家族…。回を重ねるうちに、戦争は子どもから大人まであらゆる世代が体験していると実感し、戦争の全体像を見るために必要と考えたからだ。

 当時の少年少女の体験であれば、今の子どもたちにも想像しやすいのでは-。語り部と共に学校にも出向くこともある。田川市内の中学校では、平和学習の一環として体験談を語ってもらった。取り組みは昨年までに3年間続き、ようやく定着してきた矢先に、新型コロナという予期せぬ事態が発生。今年の平和学習は実施が難しそうといい、もどかしさを感じている。

 若い世代にどう記憶を継承していくか模索が続く。ほぼ一人で活動している青山さん。「いずれ自分にも限界が来る」と分かっている。だからこそ、子どもたちが平和学習を計画したり、疑問に思ったことがあったりしたら、力になっていきたいという。

 「平和は向こうからやってくるものではない」

 ある語り部の言葉が、今も心に残っている。青山さんは「平和は一人一人が大切に守り育てていかなければ、いつの間にか手からこぼれ落ちてしまう」と、強く実感させられた。戦争体験者が高齢化する中、語り継いで後世にバトンを渡す大事な役目がある。戦後75年の節目に、青山さんは今後も地道に粘り強く活動を続けていくと心に決めている。

(丸田みずほ)

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